若者の血を輸血すれば若返る――。SF映画のあらすじやおとぎ話ではない。実際にシリコンバレーの超富裕層たちは「不老長寿」に巨額の資金を投じ、自らの肉体を実験台にしてまで若返りを図ることに熱狂しているのだ。
国際ジャーナリストである堤未果氏は、人間の生や死、老いすらもテクノロジーによって操作しようとする世の中の動きについて、1932年にオルダス・ハクスリーによって書かれたディストピア小説『すばらしい新世界』と重ね合わせる。
ここでは堤氏の『堤未果の『すばらしい新世界』 スマホで赤ちゃんを注文する日』(集英社新書)より一部を抜粋してお届けする。息子の血を自身に輸血して若返ろうとしたある億万長者の「不老作戦」の効果は……。(全4回の3回目/最初から読む)
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若い血を買う
『すばらしい新世界』では、人々は60歳になっても10代のような外見とバイタリティを保ち、ある日突然電球が切れるように死ぬ。その光景を現実のものにしようとする動きが、2000年代初期のスタンフォード大学から始まっていたのをご存じだろうか?
研究者たちが若いネズミと高齢のネズミの血管を繋ぎ合わせたところ、内臓、血管、認知機能など、さまざまな点で高齢ネズミが若返ったのだ。
〈これは商売になる!〉
2010年代半ばから、ビジネスの匂いを嗅ぎつけたスタートアップ企業が次々に立ち上がる。血液銀行から血液を仕入れ、ロサンゼルス、ヒューストン、サンフランシスコ、フロリダ州タンパ、ネブラスカ州オマハの全米5カ所で若い血液の輸血サービスを始めたアンブロシア社は、「ヒトでの臨床試験」として、35歳以上で輸血費用を自己負担できる参加者を募集した。若い血液は1リットル8000ドル、2リットルだと1万2000ドル。自由診療なので、価格は好きに決められる。
比較試験もしないままヒトを実験台にするこの血液ビジネスに、FDA(米国食品医薬品局)は、「人間への効果は証明されていない」と警告、アンブロシア社は一旦サービスを停止した。
だが、富裕層の欲望は止まらない。
同社の創業者ジェシー・カーマジンは、2020年のコロナ禍で、通常10年かかるところを1年で開発・承認されたコロナワクチンの「ワープスピード計画」を引き合いに出して、こう主張した。
「だって、我が社のサービスを心から求めているお客様がいらっしゃるのですよ。臨床試験などを待っていたら、大変なお金と時間がかかるじゃないですか」
