観客の反応を恐れていたが…
寓話やユーモアに包みながら、本作はタイの政治的問題にも踏み込んでゆく。公開前は観客の反応を恐れていた監督だが、肯定的な声の多さに驚いたそうだ。
「大胆な映画だと褒める人も、あまりにも露骨だと批判する人もいます。しかし、映画が政治を直接語れるのは非常に贅沢なことで、以前はそうはいかなかった。この作品の露骨さは、“映画にできること”の限界が広がった証拠です。若者が軍事政権や社会問題について公然と語る今、映画が後退してはいけません」
歴史の扱い方については、クエンティン・タランティーノ作品の影響を受けた。「映画のなかで歴史を想像し直す手つきに惹かれました。現実と矛盾した映画を作るのは、ある意味で倫理的な選択だと思います」という。
海外の批評家や観客からも高く評価されている。こだわったのは、母国の問題を過剰に説明したり、逆に単純化したりせず、映画としての強度を追求することだった。
「映画をしっかりと楽しんでもらえれば、普遍的な部分に共感し、わからない部分は調べてもらえるかもしれない。タイは決して特別な国ではないと感じ、観客がそれぞれの国と比べてくれるなら、それは素晴らしいことです」
ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク 1987年、タイ・バンコク生まれ。潮州・海南系の出自を持つ。2020年、短編映画『赤いアニンシー;あるいはいまだに揺れるベルリンの壁をつま先で歩く』がロカルノ国際映画祭に選出され、明日の豹たち部門(国際コンペティション)でジュニア審査員賞を受賞。商業映画やテレビシリーズの脚本を手掛ける一方で、大学講師、映画批評家としても活躍。『ユースフル・ゴースト』が長編映画第1作となる。
INTRODUCTION
第78回のカンヌ国際映画祭・批評家週間にタイ映画として初めて選出され、グランプリを獲得した話題作。幽霊となった妻が生きている夫と禁断の愛を深めるという、タイの怪談「メー・ナーク」を発想源とした本作は、「若くして亡くなった妻の霊が、掃除機に宿って夫のもとを訪れる」という一風変わったラブ・ストーリーを軸に、粉じん公害、再開発問題、マイノリティへの差別、民主化運動といった、タイの社会情勢に鋭く斬り込む作品となっている。
STORY
深刻な粉じん公害に見舞われるタイ・バンコク。最愛の妻・ナット(ダビカ・ホーン)を呼吸器疾患で亡くし、悲嘆に暮れるマーチ(ウィットサルート・ヒンマラート)。しかも、マーチの母が経営する工場では、やはり呼吸器疾患で死んだ従業員の霊が機械に取り憑いて、大きな騒動になっていた。そんななか、マーチのもとに、ナットの魂が掃除機に宿って戻ってきた。だが、ナットは霊に悩まされるマーチの家族から拒絶される。そこでナットは、工場の除霊に協力し、自らの存在を“役に立つ幽霊”だと証明しようとするが……。
STAFF & CAST
監督・脚本:ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク/出演:ダビカ・ホーン、ウィットサルート・ヒンマラート、アパシリ・ニティポン/2025年/タイ・フランス・シンガポール・ドイツ/130分/配給:SUNDAE/© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
7月10日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
