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 北川先生から放たれる言葉は鋭く、ドキリとさせられるものばかりだった。

「私自身は、野心を持つことは全く悪いことではないと思うんです。野心は、生きる力となり得ます。世間一般には、野心的な人はちょっと見苦しく思われることが多いですよね。でも、私はこうも思います。『一番取りたいことの、何がいけない?』って。いっそ、素晴らしい」

文藝春秋 10月号

 こう言ったあと、北川先生は鈴愛の祖父・仙吉のセリフを引用した。

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「人間っちゅうのはな、大人になんかならへんぞ。ずーっと子供のままや。競争したら勝ちたいし、人には好かれたいし、お金はほしい」

 野心を肯定的に捉えるこの言葉を聞き、私は非常に励まされた。これまでは、自分のしていること、書いていること、全てにモヤモヤ感があった。だが、この世の中では自分の身の丈を知り、地道に生きることが正解で、評価や成功を求めるのは恥ずかしいことだ……と、どこかで自分を納得させていた。

 今回のインタビューを通し、そんな気持ちがすっと消えていった。そうだった。私もこの言葉通り、欲しいものだらけなのだった。忘れていた夢を、もう一度見てみようという気持ちになった。

「一見余計なことをする時間も回り道も、あっていいと思います。いろんなことがあって、全てが今に、つながっている。あなたのように、感じたり考えたりして生きていくのなら、それは実りのある時間だと、私なんかは思います」

 これは鈴愛の漫画の師匠・秋風羽織のセリフだ。

鈴愛(右)と秋風(左)提供=NHK

 挫折してばっかり、曲がりくねった道を歩んで来た人々に、このドラマは優しく手を差し伸べてくれる。生きてゆく力をもたらしてくれるのだ。

 ドラマ終了まであと数週間。漫画家の夢に破れ、離婚も経験した鈴愛だが、彼女にはまだ乗り越えるべき波がきっとあるはず。そこからエンディングへ物語はどうまとめられていくのか……大きなうねりが楽しみだ。

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