取材中に唯一、桐貴さんが涙したこと
中でも「嘘つき」という言葉を発する口元を大きく描いたコマは、宮本さんの手によって、悪意と圧力を強く感じさせる表現になったという。
「完成原稿を拝見した時は、その迫力に本当に胸が震えました。桐貴さんが当時味わった、人格や存在を否定される恐怖や絶望が、生々しく伝わってくる場面になったと思います。もしかしたら、桐貴さんと同じような状況に追い込まれ、口をつぐんでしまった舞妓さんが他にもたくさんいたのではないかと思わずにはいられませんでした」
そして、このエピソードの取材時、これまで常に明るく振る舞っていた桐貴さんが、一度だけ涙をこぼしたという。
「これまでどんなお話でもできるだけ明るくお話しくださっていた桐貴さんが、取材の中で涙を流されたのはこの一度だけでしたので、非常に印象に残っています。この桐貴さんの姿を見て、過去の傷は決して簡単に消えるものではないのだと改めて感じましたし、心の傷や被害の実態を、決して忘れさせてはいけないと強く思いました」
華やかな世界の裏側でタブーとされてきた問題を描くことには、怖さもあった。しかし、桐貴さんの「私は花街になくなってほしいわけではない。悪しき風習をなくし、日本を象徴する尊い文化として生まれ変わってほしい」という強い思いが、この作品を世に送り出す原動力となった。
実際に1巻の発売後、一部の花街では未成年の舞妓への飲酒強要を禁じる動きなどもあったという。最後に、Mさんはあらためてこう語った。
「桐貴さんが、ご自身のつらい経験を語るという大きな決断をしてくださった勇気を、ぜひ多くの方に受け取っていただきたいです」
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