米国とイスラエルによる大規模奇襲攻撃で始まったイラン戦争も、緒戦こそ、強大な軍事力を誇る米国とイスラエルが圧倒したが、その後はイランが、「ドローンなどの安価で大量の兵器」と「ホルムズ海峡封鎖」という「非対称戦略」でトランプ大統領を追い詰めて徐々に形勢を逆転させ、イランに圧倒的に有利な「14項目の覚書」の締結に至った。トッド氏がイランの「勝利」の背景を分析した。(通訳=大野舞)

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「非対称戦略」で見事に逆襲したイラン

 今回のイラン戦争は、核問題を協議していた2月28日に、米国とイスラエルがイランに大規模奇襲攻撃を仕掛けることで始まりました。

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 緒戦は、最新鋭の高価な兵器で米国とイスラエルが圧倒しましたが、イランは簡単には屈しないと私は確信していました。安価で大量の兵器を駆使するイランの「非対称戦略」の有効性は、昨年の「12日間戦争」ですでに証明済みでしたし、さらに歴史家として、多くの識者が見逃してきた「イランの近代化」を20年以上前から指摘してきたからです。しかし、これほど見事な抵抗と反撃は予想以上のものでした。

エマニュエル・トッド氏 Ⓒ文藝春秋

 イランは、世界最強国の理不尽な攻撃に耐えただけでなく、ホルムズ海峡の封鎖で世界経済を混乱に陥れ、とりわけ米国のガソリン価格を高騰させて形勢を逆転させ、むしろ米国を追い詰めていきました。しかも、6月17日に署名された「覚書」のように、結果的に戦争前よりもイランに有利な状況をつくり出しつつあります。

 かつてのイランは、米国とイスラエルの先制攻撃に対する反撃に終始していましたが、最近は、ヒズボラ支援のため、イスラエルに先制攻撃を仕掛けるまでに至っています。この変化は、イランが戦略的優位を確立したことの証しです。米国とイスラエルの高価なミサイルがすぐに枯渇したのに対し、安価な弾道ミサイルとドローンを大量に温存し、持久戦を辞さないイランの構えが、和平交渉での強気な姿勢につながっています。

イランの最高指導者となったモジタバ師 ©AFP=時事

 イランは、国家体制としても強靭性と柔軟性を兼ね備えています。開戦当初、「斬首作戦」で最高指導者のアリー・ハメネイ師を始め、多数の要人を殺害されたことにより、イランの指揮系統は一瞬で寸断されました。イスラエル軍の発表によると、最初の攻撃からわずか40秒間に、「イランの最も重要な要人・軍高官の40人以上」が殺害され、その後の攻撃も含めると、少なくとも計50人以上の政権幹部や司令官が殺害されています。ところが、イランの体制は崩壊しませんでした。属人的ではない近代的組織が機能したからです。