闘病中の父をハマスタに誘うと…

 日本一の翌春、父は膀胱がんと診断された。年齢等を考慮して、術中術後の負担が大きい膀胱の全摘出は選択せず、部分切除と抗がん剤での治療となった。長嶋茂雄と同年生まれの父は気力体力を尽くし、点滴のために通院する。僕はときどき実家経由で病院に同行し、主治医の話を聞く。そして夜には、ベイスターズの試合を父のシーズンシートで観戦だ。劣勢の試合では、ヤスアキのツーシームみたいに以前のようなキレを欠く毒舌を聞きながら。

 この春、ヤスアキは先んじて復活した。一方、父の闘病は続いている。MRI画像を見て主治医が言った。「リンパが腫れているので、転移の可能性があります。薬の量を増やしましょう。他の薬を試すことも検討します」。1年前に原発巣を全摘出しなかったことから、転移の可能性はわかっていた。父はまず、副作用がひどくならないか、を気にしている。抗がん剤の副作用の憂鬱を知らない僕は、少し拍子抜けしたが、時計の針が進んでいることは、お互いにわかった。

 そして、ヤスアキと僕たち親子の夢はまだ途上だったことを思い出す。久しぶりに父にハマスタでの観戦に行かないかと声を掛けると、乗り気な答が返ってきた。

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「体調よければ、連れて行ってくれるか? 今年はヤマザキも調子がよさそうだし。寿命が縮むのは勘弁だ」

 笑うに笑えない。

「だから、ヤマザキじゃなくて、ヤマサキだって。ヤマサキ、ヤスアキ……」

 濁点のないヤマサキヤスアキから「点」を取るのは、不可能だ。山﨑康晃は、大魔神が持つチーム歴代トップの通算セーブ数252の突破が近づいている。ヤスアキが投げれば、親父の毒舌も僕らの日記も更新が止まることはない。

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