恋愛相談から風水まで…“人間臭い”神様の素顔

 台湾に着いて2日目、遠藤氏は明治時代の軍人・田中綱常が神格化したとされる「田中将軍」を祀る現場に足を運んだ。

「突然の降神にカメラを持つ手が震えました。憑依は1時間に及び、田中将軍は信徒一人ひとりの相談に丁寧に乗っていきました。

 信徒さんの悩みは、事業の成功や恋人との結婚、娘の嫁ぎ先での人間関係など、どれも身の丈のものです。それに対し、田中将軍は日常生活や風水の改善、漢方の処方などを具体的にアドバイスし、最後には必ず『いつも見守っている』と付け加える。国家の命運を占うような大言は口にしません。

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©2025 SANSARO FILM LLC

 軍服を着ているから『軍神』と勘違いされがちですが、神様がくれるご利益は信徒の日常の悩みに応えるのが大部分です。人間に近い不完全な神様だからこそ人間味があふれていて、先生や友人、親戚のような距離感の存在なのだと思います。そんな神様と信徒の関係のあり方にとても好感を抱きましたね」

生臭い匂いがする洞窟、旧日本軍の痕跡

 長年の取材のなかで最も背筋が凍ったというのが、シャーマンの石さんが若い頃に田中将軍の霊と出会ったと語る“コウモリ洞窟”での体験だ。ここには「軍人の霊もいる」のだという。

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「土気色をした人の背丈ほどの細い穴が奥へと伸びていて、驚いたコウモリが暗闇から飛び出して頭の脇をかすめていきます。洞窟の中はじっとりとして蒸し暑く、生臭い匂いがしました。足元はコウモリのフンが厚く堆積していてフカフカです。

 ところどころ崩落した穴を土と埃と汗まみれになって進み、やがて向こうに日の光が見えてきました。光を目指して着いた先は、コンクリート打ちっぱなしの小さな空間でした。壁面には20センチ四方の四角い窓がいくつも穿たれている。すぐに銃眼(敵を攻撃するために開けられた小さな穴や窓)だと気づきました。つまり、ここはトーチカだったのです。

 それまで洞窟だと思っていた場所は、旧日本軍が構築したトーチカと防空壕でした。石さんが言っていた『ここには軍人の霊もいる』という意味をようやく理解した瞬間です。日本人が引き揚げて80年経つ現在も、ここに日本兵の霊が地霊のように棲みついている。背筋がゾクッとしました」

 なお、コウモリ洞窟は現地の人にとっても気味が悪い場所ではあるようで、撮影のために何度も出入りする遠藤氏に対し、同行の台湾人から「日本精神がある」と声をかけられた。日本精神とは、突撃精神のこと。翻って、勇気があることを表すという。