硫黄の香りが周囲に漂い始めると同時に、野湯マニアのアドレナリンが噴出し始める。ただし、崖に囲まれているため、降下場所を探さねばならない。
非積雪期には沼の北側に小川が流れ込んでいるのだが、数m以上の積雪に完全に埋もれていて、その付近から岸上部にアクセスできた。しかし、沼周辺の雪は湯温のせいか崩れやすく、何度か足元が崩れて落ちそうになった。
いよいよ広々とした紺碧の湯船に
沼の岸には先人が工事した湯船があったが、湯温が低く氷点下での入湯は厳しい。見渡すとあちこちでブクブクと温泉が湧出している。
岩場の岸からゆっくり足を入れる。沼の表面は熱めではあるが適温。数十cmの深さでは少し熱くなった。さらに足を沈めると、部分的に熱湯を感じる。底から湧いている熱い温泉が、時折襲ってくるのだ。
やっと底に足が着いたが、ズブズブと泥に足が埋まっていく。その泥が火傷しそうなほど激熱だ。熱さとそのまま沈んで底に引きずり込まれそうな恐怖を感じ、必死の思いで岩を這い上がる。何とか火傷は免れたが、胸や足にたくさん擦り傷を作ってしまった。
どうするか悩んだが、こんな貴重なチャンスは滅多にない。そう自分に言い聞かせ、再度沼への入湯を決める。もう一度ゆっくりと足を沈めていき、熱湯に直面しないように足でかき混ぜながら、底に足が着く前に沼の中へ泳ぎだした。
沼の中は場所により温度にムラがあるが、泳いでいればかき混ぜられて火傷の心配はなさそうだ。濃い温泉成分のおかげか身体は浮きやすく、ゆったりと遊泳しながらの湯浴みを楽しんでいた。



