選択肢は他にもある
そもそも、遠方の墓を畳んでしまうことだけが答えではない、というのが横田さんの考えだ。
「お墓が遠い故郷にあっても、そのお墓の近くに暮らす親族や知人、お寺の境内地にあるのなら、そのご住職と相談をして、年に数万円を包み、見守ってもらえばいい。離檀料で何百万とか言われ、新しいお墓の用意に百万、二百万の費用もかかって、心を疲れさせてしまうより、そのほうがずっと合理的ではないでしょうか。
ふだんは行けなくても、人生の節目にお墓参りへ立ち寄るだけで、自分の出発点はここだったと思える。それだけでも、遠くても故郷のお墓を残しておく意味はあると思いませんか。
あるいは、分骨をして、身近な生活空間の範囲に『もうひとつ』のお墓を用意するということも考えてはどうでしょうか」
後悔しない選び方「三つの見る」
では、実際に納め先を選ぶとき、後悔しないために何をしておけばいいのか。横田さんがすすめるのが「三つの見る」だ。
「一つ目は、たくさん見る。自分で足を運ぶことです。土日に一か所ずつ回れば、一か月で八か所は見られる。八か所も見れば、お墓のことを知らなくても、自分なりに比べられて、『実は、自分はこういうお墓を探していたのか』と、方向が見えてくる。
二つ目は、たくさんの人と見る。見学して、二、三か所に絞り込んだところを、なるべく多くの人と一緒に見るのです。そうすれば、自分だけでは気づけないことを、他人が教えてくれます」
残る一つは、契約内容の確認だ。
「三つ目は、規則を見る。そのためにも『使用規則をください』と言って、すっと渡してくれるかどうか。渡してくれなければ、後々トラブルになることも少なくありません。ですので、どれほど魅力的でもそこは再考した方がいい。それと、いざというときお骨を運んでくれる人を具体的に考えてはおくことも大事です。
墓友という言葉もありますが、『友』が同世代なら、『見てね』『運んでね』と頼んだ相手が、先に亡くなるかもしれない。そうした意味では、本当は二回りほど下の世代でないと、自身のお骨を納めてもらう備えにはなりません。
現地を墓友と一緒に見ておけば、生前に申し込んでも覚えていてくれるでしょう。亡くなったあとの行き違いも防ぐことにつながります」
これからのお墓と社会
樹木葬や納骨堂は、これからさらに広がっていくのか。横田さんは、その勢いもいずれ止まると見る。
「樹木葬や合葬墓は、増えているようですが、ゆくゆくはどうなるでしょうか。我が国には八十六万か所ほどの墓地があり、数千万基のお墓が建っている。長い年月をかけて積み重ねられてきた厚みは、新しい形式とは比べものになりません。新しいものは運用の実績が浅いぶん、申し込んだご本人は納得していても、周りが振り回されてしまいかねない難しさも残ります」
「お墓は、社会を支える仕組みの一部でもある」と、横田さんは話す。
「お墓がこの先どうなるかという問いは、結局、日本の社会がこれからどう変わっていくのか、という問いと地続きなのです」
お墓が姿を変えるというより、社会の移り変わりに応じて、そうした変化に寄り添いながら、必要とされ続けていく。流行や手軽さだけで選ぶのではなく、お墓は誰のために、何のためにあるのか。そこに立ち返ることが、後悔しない選択への一歩になる。
横田 睦
よこた むつみ 東京都出身。東京工業大学にて博士(工学)取得。大学建築学科時代から墓地研究を進め、地方公共団体の墓地管理委員会などに参画。公益社団法人全日本墓園協会専務理事・主管研究員、日本環境斎苑協会常任理事。墓地・納骨堂・火葬場など葬務事業関連施設の第一人者として知られ、通称「お墓博士」。著書に『お骨のゆくえ―― 火葬大国ニッポンの技術』(平凡社新書)、『お墓博士のお墓と葬儀のお金の話』(光文社新書)など。
