プーチンも憧れた大物スパイ
3人目は、日本における20世紀最大のスパイ事件、ゾルゲ事件の首謀者である「リヒャルト・ゾルゲ」。ソ連のスパイとして、ドイツの新聞記者を装って来日、近衛首相のブレーンや駐日ドイツ大使と親交を結び、機密情報を密かにソ連に流した。なかでも、ヒトラーによるソ連侵攻計画をいち早く察知、モスクワに報告したという。私生活では酒とオートバイを愛し、日本人の愛人を囲うという奔放な生活を送っていた。
1941年(昭和16年)9月に検挙、44年(昭和19年)11月のロシア革命記念日に処刑された。あのプーチン大統領も学生時代に憧れ、ゾルゲのようなスパイを目指してKGBに入ったという。2026年7月、ロシア政府によって北方領土の無人島に「ゾルゲ島」の名前が付けられたというニュースが流れた。
南朝の末裔を自称する“天皇”
最後の怪人は、「熊沢天皇」。終戦直後の1945年(昭和20年)11月、南朝の末裔を自称する熊沢寛道はGHQのマッカーサー元帥に「私が正統な皇位継承者である」と直訴。これに興味を持った「ライフ」誌や「星条旗新聞」に記事が掲載された。ちょうど昭和天皇が人間宣言をした時期でもあり、民間人が天皇を名乗り出た前代未聞の出来事に世間は騒然となった。
「いまの天皇は足利系のニセモノである」と主張する熊沢の周囲には一時は支持者が集ったが、やがて世間の関心は薄れ、晩年の生活は侘しいものだったという。なお、占領下では自称天皇がブームで、何人もの「〇〇天皇」が出現していたのだった──。
怪人たちに新たな光を
本書では他にも、明治末日本に透視ブームを巻き起こした「千里眼」婦人から、人類が窒息死すると恐れられた「ハレー彗星接近」、1500人が犠牲となった「タイタニック号沈没」、ラジオドラマ「火星人襲来」騒動、1999年7月の「ノストラダムスの大予言」など、25の怪事件を取り上げている。それらを振り返れば、戦争とイデオロギー、科学技術とオカルトが交錯した、20世紀という時代の〈正体〉が見えてくるかもしれない。
今回取り上げた4人の怪人に共通するのは、決して“過去の人”ではないことだ。ラスプーチンはいまも小説やゲームのキャラクターとしてお馴染みだし、甘粕は満州モノの映画やドラマでは欠かせない存在だ。ゾルゲはロシアでは銅像が建てられるほどの英雄であり、熊沢天皇は皇位継承が話題の昨今、改めて注目されるべき人物なのだ。
イギリスの歴史学者E・H・カーは「歴史とは、現代の光を過去に当て、過去の光で現代を見ることだ」と述べている。ミレニアム最後の100年に跳梁跋扈した怪人たちの妖しい光が、混沌とした21世紀の〈未来〉を照らし出す……こともあるかも!?





