憎しみと赦しのかたち
──映画では、罪を犯した後の贖罪のあり方もまた大きなテーマとなっています。
中野 ひとつ確かなことは夕平は家族を愛していたという事実。人を殺めてしまったけど、決して憎んでいたからではない。そのなかで夕平なりに悩んで、どうやって罪を償うのかを選択した結果です。かつて幼かった朝子(早瀬憩)が成長して刑務所を訪ねてこなければ、彼は出所してもただ粛々と生きたはずです。罪の意識が消えるはずもないですから。
──赦すこともまた重要なテーマですね。
中野 僕は、人を憎んだまま死ぬのは苦しいだろうなと思うんです。一方で絶対に赦せない人だっていて、もしかしたら赦せない気持ちが生きる力になっている人もいるかもしれない。戦争となれば善悪の判断すら揺らぐ。でも、人は生きていかなきゃならない。そのなかで憎しみとどう対峙するかを考えるとき、映画には作家としての願いを込めたつもりですが、やっぱり答えは出せない。人間に対する普遍的な解答なんておこがましくて。今作ではあくまで夕平と朝子の間にある“赦し”のかたちを描いたにすぎず、「絶対に赦すべき」なんてことを言うつもりはありません。
──赦しのかたちは関係性によってさまざま。だからこそ、中野監督は家族という最小単位の物語として描くんですね。
中野 そうです。どの作品でも“その家族の場合”を描いているだけで、普遍的な家族の正解を描くつもりはさらさらないですね。この映画を観る人にも、それぞれの家族のかたちと赦し、その先にある再生について思いを馳せていただきたいです。
『私はあなたを知らない、』
西山夕平は天涯孤独の身。粛々と働き、自分の中で決められたルーティンで生活をし、たった一人のその環境を寂しいとも感じずに生きてきた。職場にやってきた新しいパート職員・紗月と出会うまでは。彼女と出会い、生きる喜びを得て夕平の毎日は輝いていった。そしてある日、紗月から自分の5歳の娘・朝子を紹介される。彼女は実はシングルマザーだった。紗月と朝子との生活で、これまで知らなかった“家族”という幸せの形に触れ、夕平は心を開放していくが……。
原案・脚本・監督:中野量太/出演:坂口健太郎、早瀬憩、堀田真由、倉田瑛茉、滝藤賢一、原田美枝子/2026年/日本・フランス/126分/配給:クロックワークス/©IDKYPs./Pyramide Productions/8月28日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

