人気者がチームを離れて「バブル崩壊」が起きた
普段、スポーツを取材している身からすると、2部リーグの地方クラブ、それも決して強豪とは言えないチームが毎試合、これほどの観客動員を誇るというのは驚異的なことだと感じた。それだけサッカーという競技には“力”があるのだろう。
中でも目についたのが女性ファンの多さと、スタジアムまわりの屋台やグッズ販売の充実ぶりだ。女性ファンや子どもたちをターゲットにしたフェイスペイントの体験コーナーや、地元産の食材を使った出店の数々は「いかにファンを楽しませるかが重要」という目線の徹底を感じさせてくれた。また、ハーフタイムには地元出身のアーティストによる生演奏でのミニライブもあり、多角的にファンを魅了してくれた。
岐阜は2014年にラモス瑠偉監督が就任し、川口能活や三都主アレサンドロといった元代表選手を獲得したことで、一種の「バブル人気」が起きた。だがその後、その人気者たちがチームを離れたことで、バブル崩壊ともいえるファンの減少も起こっていた。近年はそんな状況からいかにチームの基盤を立て直すかが課題となっていたという。そういった中で、運営サイドが頭を捻った地道な活動が、少しずつ実を結んできているのだろう。
途切れることなく歌われるチャント
こういった心遣いはこの日のイベントにも見られた。当日、デル・ピエロの通訳を務めたのは、かつてFC岐阜でMFを務めていた森安洋文だった。ファンからすれば、以前チームに所属した懐かしい選手が、こういった形でフィールドに帰ってきてくれるというのは心躍ることだと思う。
森安本人も、そんなチームの心意気についてこう話す。
「選手としてだけでなく、引退した後もこうした形でチームに関わらせてもらえるというのはとても嬉しいですね。昔からのファンのみなさんにはスタジアムでも声をかけてもらえて、本当に感謝しています。岐阜の街中にも昔と比べてチームのフラッグやポスターも増えて、街全体でチームを応援しようという空気感が出ていてすごく良かったですね」
この日、岐阜は強豪の東京ヴェルディ相手に1-1で引き分け、続いていた連敗を止めた。勝ち点1を拾ったことで、J2の残留争いにも踏みとどまった。
満員のスタジアムで途切れることなく歌われるチャントは、J2という険しいフィールドで奮闘するチームの頑張りを、ファンたちも心から応援していることを表しているように見えた。
「クレージーだと思ったよ」
デル・ピエロ本人も、この日の試合の岐阜サポーターを見て驚いていたという。
「僕が駅を下りると、サポーターがすでに待っていてくれて、クレージーだと思ったよ。驚いたし、とても嬉しかったね。FC岐阜は、いまは決してチームが好調ではないにもかかわらず、サポーターたちは決してあきらめず、最後まで応援し続けていた。その姿勢が本当に素晴らしい」
一方で、だからこそ考えさせられたこともあった。
プロスポーツの在京、在阪チームは、そのファンの多さや、立地の良さにあぐらをかいて、ファンサービスを怠ってはいないだろうか。多くのアマチュアスポーツの運営サイドは、「プロスポーツと違ってお金がないから」ということを言い訳に、その動きをとめてはいないだろうか。地方の中小クラブでも、レジェンドを使った企画が実施できるように、スポーツには経営面も含めてもっともっと可能性が眠っているはずなのに――。
そんなことを思いながら、グリーンに染まった長良川競技場のスタンドを後にした。