「自分が疑われているのではないか、という不安です」――逮捕前夜、元介護職員はそう答えた。川崎市の老人ホームで3人の高齢者が相次いでベランダから転落死した事件。
目撃者も監視カメラもなく、捜査が暗礁に乗り上げる中、事件を動かしたのは遺族が密かに撮影した“虐待映像”だった。
「自分が疑われているのではないか」
2014年11月から12月にかけて、川崎市幸区の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で、80〜90代の男女3人が深夜に相次いでベランダから転落死した。要介護2・3の高齢者が、高さ約120センチの手すりを自力で乗り越えて転落するはずがない。だが、目撃者は皆無。遺書もなく、監視カメラも存在しなかった。
捜査は事故処理へと傾きかけていた。
そんな中、全3件の転落死が起きた夜にただ一人宿直していた元職員・今井隼人(当時21歳)がメディアの前に姿を現し、関与を否定した。「不安な気持ちがあります」「自分が疑われているのではないか、という不安です」――短髪で黒縁メガネの青年は、逮捕の瀬戸際に立ちながらも、焦りの色を微塵も見せなかった。
事態を動かしたのは、別の入居者の家族が隠し撮りした映像だった。別の職員4人が認知症の女性に「死ね」と暴言を吐き、首を絞める様子が収められており、施設全体の異常性が世間の目にさらされた。警察はこの世論の追い風を受け、今井を追い詰めていく。
「むしゃくしゃして投げ落とした」
2016年2月、今井はついに逮捕された。「介助を拒否され困っていた」「むしゃくしゃして投げ落とした。殺すつもりだった」と3人の殺害を自白。しかし2018年1月の初公判で、今井は静かに口を開いた。
「いずれも何もやっていません」
自白を全面否認したのだ。弁護側は「精神障害による健忘」や「取調官の圧迫による虚偽自白」を主張した。だが判決で明らかにされた事実は、弁護側の主張を根底から覆すものだった。今井は逮捕直前、取調官ではなく、母親に電話でこう告げていたのだ。
「自分がやった」
2018年3月、横浜地裁は「反省の態度はみじんもうかがえず、極刑もやむを得ない」として死刑を言い渡した。今井は能面のような表情で、深く頭を下げた。
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老人ホームで繰り返されていた驚くべき虐待の様子とは……。【関連記事】「死ね」と罵倒、女性の首を絞める姿も…《川崎老人ホーム転落事件》警察を動かした“衝撃の証拠映像”(平成26年の事件)へ続く。
