受診の目安は?
睡眠の悩みが生じた場合、受診の目安は「翌日の活動への影響が起きているか」だという。
「睡眠が以前と比べて変化しても、翌日普通に生活ができていれば治療する必要はありません。日中の眠気や疲労感、集中力の低下などが出ている場合は、受診を検討してください」
受診先を選ぶ基準は、他の症状を併発しているかどうかだ。
「睡眠障害のみが気になる場合は、睡眠専門の外来・クリニックや心療内科、かかりつけの内科に相談してみましょう。とくに、激しいいびきや呼吸停止を伴い、日中に猛烈な眠気があるなら『睡眠時無呼吸症候群』、寝ようとすると足がムズムズするなら『むずむず脚症候群』という別の疾患が疑われるので、睡眠専門の医療機関の判断を仰ぐとよいでしょう」
ホルモン補充療法も
更年期特有の変化に伴う睡眠の問題であれば、産婦人科が第一選択になる。
「この場合、睡眠障害だけでなく、疲労感やホットフラッシュ、気持ちの落ち込みやイライラ、関節痛など、他の更年期症状も一緒に訴える人がほとんどです。更年期症状に対する治療をすることで睡眠障害も大きく改善することが多いです。産婦人科の中でも、更年期外来を掲げていたり、日本女性医学学会のホームページに掲載されている専門医がいたりする医療機関は、更年期女性のケアに理解が深いので、なおおすすめです。まずは更年期外来を窓口にし、器質的な疾患が疑われる場合に専門医を紹介してもらうという流れでもよいでしょう」
「自分が更年期外来の対象か分からない」という悩みはありがちだが……。
「よく聞く悩みですね。日本での更年期の定義は閉経前後の10年間ですが、閉経したかどうかは事後にしか分かりません。閉経前5年間という定義に捉われ、受診しても『まだ更年期じゃないよ』と返されてしまう人もいると聞きます。判断基準は月経の乱れ。月経周期が7日以上変動するようになり、更年期かなと思う症状があったら、自信を持って更年期外来にかかっていただいて構いません」
では、具体的にどんな治療法があるのか。
有力な選択肢になるのがHRT(ホルモン補充療法)だ。
「更年期症状も伴う睡眠障害の場合、減少している女性ホルモンを補うHRTは非常に有効な治療法です。黄体ホルモンが抗不安や鎮静効果を持つことは前述しましたが、中でも、睡眠の質改善に有効なのが『天然型プロゲステロン』です。体内で分泌されるホルモンと同じ化学構造で、我々を含む複数の研究で睡眠の質の改善が確認されています。保険適用の内服薬で、患者さんからの満足度も高く、『熟睡できるようになった』という声が聞かれます」
比較的即効性もある。
「子宮がある女性のHRTでは黄体ホルモンとエストロゲンを必ず併用します。エストロゲンは内服薬、貼り薬や塗り薬などの経皮吸収型と複数の形態があり、医師と相談のうえ選べばよいです。多くの患者さんが、HRT開始から2週間以内に睡眠の質や更年期症状の改善を実感されています。更年期に入ってから、遅くても閉経後10年以内には始められるとよいですね」
《この続きでは、不眠に聞く漢方薬や依存性の低い睡眠薬、さらに睡眠の質を上げるために簡単にできる「眠りの心得4カ条」を小川教授が解説。記事の全文は、現在配信中の「週刊文春 電子版」および9月3日(木)発売の「週刊文春」で読むことができる》
(おがわまりこ/1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年から東京歯科大学市川総合病院(当時)産婦人科勤務、15年准教授。24年福島県立医科大学特任教授。25年11月から現職。)
