貧困と人種差別から解放されるため海兵隊に志願したアレン・ネルソンは、ベトナムで是非もなく敵を殺すことになる。帰還後、PTSDと戦った著者が語る戦争の真実とは……?
アレン・ネルソンによる同名の手記を原作に、自身3作目となる戦争映画を撮った映画監督・塚本晋也と、『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』で知られる漫画家・武田一義。ふたりの表現者はそれぞれの作品のなかで戦争、そして巨大な暴力とどう向き合い、いかに描いたのか?
凄惨な物語に込めたメッセージの意図と作家としての覚悟を語り合った。
“暴力の世界”が近づいて来ているという恐怖
武田 僕は意図的に事前情報なしで『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』を拝見したのですが、塚本監督は今作で精神を傷つけられた兵士が、PTSDから回復していくさまを描かれた。戦争で露わになる人間の暴力性については、監督の『野火』(14年)でも見せつけられましたが、今作ではもっと深いところに行かれたなと、圧巻でした。
塚本 『野火』を撮っているときにアレン・ネルソンさんの話を知り、これはすごいものに出会ってしまったと思い、加害者側を描く映画を撮る必要があると考えたんです。その舞台はベトナム戦争ですが、第二次世界大戦後の高度経済成長期における日本でも、加害者としてPTSDに苦しんだ人たちが大勢いたことが最近分かってきました。どんな戦争であれ、ひとたび始めてしまうと終わりがないんです。
武田 暴力の連鎖ですよね。戦争によって引き出された暴力性は、戦争が終わった後も日々の営みの中で顔を覗かせてしまう。自分が漫画を描くときに気をつけているのですが、戦争は戦闘そのものやビフォア・アフターだけでは描けない。今作はその点で、人間に対して誠実な描写だと感じました。
塚本 僕は戦争を英雄譚として描くのには反発がある一方、悲劇的な出来事を被害者の目線で描くのは重要と思っています。ですが、被害者と加害者それぞれに等しい数の物語があるはずで、その点では深まったと言えるし、別の視点を得たとも言えます。
武田 僕は『野火』がベスト戦争映画だと公言してきたのですが、その理由は戦争によって人体と心が破壊されていく描写に容赦がないから。現実の暴力を突きつけられるんです。今作でも、ベトナム戦争におけるベトコンや住民に対する暴力が容赦なく描かれる。現代人は子どもの頃からさまざまなエンタメを通じて暴力に触れ、その恐怖を過小評価してしまいがちです。だけど塚本監督の映画では、金属の塊である兵器に対し、肉の塊である人間がいかに無力かを思い知らされるんです。
塚本 自分の意識としては、映画を観る人に、暴力はいやだ、こんな目に遭いたくない、戦争には近づきたくないと思ってもらいたい一心です。今は“暴力の世界”が近づいて来ているという恐怖があるので、戦争というテーマからどうしても離れられなくて。

