戦争はただの残虐な殺人。だからこそ、暴力表現にはこだわりたい

PTSDに苦しむアレン(ロドニー・ヒックス)に手を差し伸べたのは、カウンセラーのダニエルズ医師(ジェフリー・ラッシュ)。医師との対話がアレンの回復の一助となる。©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

武田 一方で、現実の生活は昔に比べてすごくクリーンで、日常において暴力の気配が薄い。それによって、暴力とその結果に対する想像力が失われる怖さを感じます。

塚本 そうですね。それを一番心配しています。世の中はなるべく綺麗ごとにしていこうとするので、『はだしのゲン』を図書館から排除しようとしたりする。僕には戦争体験がなく、両親や祖父母もそれを一切話そうとしなかったので、あの漫画から受けた影響は大きく、軽いトラウマを感じるくらいです。今はそういった“必要なトラウマ”を感じる機会すら失われているので、暴力の怖さがわからず、ヒロイズムみたいなものだけで戦争に行って、本物のトラウマを持ってしまう可能性がある。そこで行われるのはただの残虐な殺人なんです。

武田 だからこそ、暴力の表現にはこだわりたいですよね。人はきれいには死ねないとか、そういうところは強く意識しています。

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塚本 武田さんの『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』は見た目こそデフォルメされた絵柄ですが、戦争というテーマに対し冷徹な視線で描いていらっしゃると感じます。

武田 あの絵柄で漫画家としてデビューして、そのまま『ペリリュー』を描いた感じではありますが、重いテーマを表現するにはちょうどいいだろうと思って、今は自覚的にやっています。

大きな音などが契機となるPTSDによる発作は愛する家族の前でも起こり、アレンはさらに追い詰められていく。©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

塚本 戦争体験を知るのは大切なことである一方、特に子どもたちにとっては重すぎるかもしれない。目を背けてしまうところをキャラクターで入りやすくするのはとても大事ですね。僕も映画であんな表現をしていますが、若いお客さんにはおばけ屋敷のように怖いもの見たさで来てもらい、出ていくときに大事なものを持ち帰ってもらいたいと考えています。

武田 ネルソンさんは生涯PTSDと向き合い続け、その体験を語ることでどうにか日常に踏みとどまりました。でも、大多数の人は語らずじまいで亡くなったわけですよね。

塚本 日本では特にそうです。戦争体験を語ることが、心の弱さと捉えられる風潮すらありました。時代が変わって、戦場では人間の潜在的な暴力性が発露することがわかっているのに、今の世界では多くの人がそれを開花させようと躍起になっている。それはとても恐ろしいことです。

 

たけだ・かずよし 1975年、北海道生まれ。2012年、精巣腫瘍により片方の睾丸を摘出した顛末を描く闘病記『さよならタマちゃん』を連載して話題に。16年から21年は『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』を連載し、日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。25年にはアニメ映画化され、日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞。

つかもと・しんや 1960年、東京都生まれ。89年に『鉄男』で劇場映画デビュー。その後、『六月の蛇』(02年)、『KOTOKO』(11年)などを経て、14年に大岡昇平原作の『野火』を映画化。暴力の表現において鮮烈な印象を与える。戦後の闇市を舞台とする『ほかげ』(23年)を経て、今作は3本目の戦争映画となる。俳優としても多数の作品に出演。

 

 

©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

INTRODUCTION
『鉄男』(89年)、『野火』(14年)などで知られる塚本晋也監督による唯一無二の戦争映画。原作は18歳で海兵隊に志願したベトナム帰還兵アレン・ネルソンが、加害者の視点から戦争の恐ろしい現実と拭いきれない精神的痛みを綴った手記。キャストにブロードウェイミュージカルなどで活躍するロドニー・ヒックス、『シャイン』(95年)でアカデミー主演男優賞受賞のジェフリー・ラッシュ。さらにマーク・マーフィー、リリー・フランキー、タチアナ・アリらを迎え、ニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄で撮影を敢行し、この事実に真っ向から取り組んだ。
STORY
貧困や差別から抜け出すため、18歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソンが、苛烈な戦地ベトナムで学んだのは〝いかに多くの人を殺せるか〟のみ。その対価として得たのは、わずかな賃金とPTSDだけ。23歳で家を追い出され、ホームレスとなったアレンをこの世につなぎ止めたのは、退役軍人病院でカウンセリングを行っていたダニエルズ医師の存在だった。
STAFF & CAST
監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也/出演:ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュ、 マーク・マーフィー、リリー・フランキー、タチアナ・アリ/2026年/日本/116分/配給:キノフィルムズ/©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA/2026年9月11日より公開。

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