小さい文字が読めないときには、CMでやっている例のあのメガネを使えばいいのかもしれない。でも、小さい音が聞こえなくなったら、どうすればいいのか……。
高齢者に多い「難聴」は、単に日常生活に支障が生じるだけでなく、うつ症状や認知症の原因になる危険性も指摘されている。
すでに耳が遠い人も、まだの人も、知っておいて損はない「老人性難聴」の対策について、勉強しておきましょう。
人間の耳は120歳まで使えるようにできているが
老人性難聴とは、読んで字のごとく、加齢に伴い耳の聞こえが悪くなる疾患。
「加齢により内耳周囲の諸器官の細胞が減ると、音を感じ取る能力が低下する。それでも何とか感じ取った音を、今度は脳に伝える聴覚神経が経年劣化していく――。そんな複合的な要因で起きる難聴のことです」
と説明するのは、東京・北青山にある山川耳鼻咽喉科医院院長の山川卓也医師。
人間の耳は、構造上は120歳まで使えるようにできているという。
しかし、加齢によるダメージには個人差がある上、遺伝的要因も関係するので、早い人では50代で「聞こえ」の悪さが始まることもあるという。
典型的な老化現象なのだが、放置していいというものでもない。
2017年に医学雑誌「ランセット」に載った記事によると、認知症を引き起こすと考えられる9つの原因の1つに、「難聴」が含まれているのだ。
■「ランセット」に掲載された「認知症を引き起こす危険因子」
(1)高血圧
(2)糖尿病
(3)肥満
(4)運動不足
(5)喫煙
(6)教育水準の低さ
(7)社会的孤立
(8)難聴
(9)うつ
これらの危険因子をすべて除外できれば、認知症を発症する危険性を3分の1程度低下させることができるという。
コミュニケーション能力が下がって社会的孤立を招く
なぜ難聴が認知症の危険因子なのか。山川医師が解説する。
「老人性難聴の人は、特にスピードの速い会話の聴き取りが難しくなります。そのため会話に参加するのが面倒になっていくのです。その結果コミュニケーション能力が下がって社会的孤立を招き、この状態が続けばうつになりやすくなる。つまり、認知症を引き起こす9つの因子のうち3つを併せ持つ危険性があるのです」
健康長寿を考える上で、無視できない存在の老人性難聴だが、現状では根本的な治療法はない。できることといえば、補聴器を使って「聞こえ」を改善することだ。
しかし、ここにも大きな問題がある。日本人の「補聴器に対する知識の乏しさ」だ。
耳の遠い人でも、補聴器さえ付ければたちどころに聴力が回復し、若い頃と同じように聞こえるようになる――と思い込んでいる人が意外に多いのだ。
実際にはそんなことはない。
「内蔵されたコンピュータが“声”と“雑音”を分離し、声を大きく、雑音を低くすることで会話がしやすいようにサポートする、というのが補聴器の基本的な仕組みです。決して若い頃の耳と同じように聞こえるわけではないし、逆に合わない補聴器を使ったり、使い方を誤ったりすれば、難聴を悪化させる危険性もあります」