「『連獅子』の仔獅子は、ずっと憧れていた役です。毛振りがかっこよくて、2歳の頃から、マフラーを頭に巻きつけて、夢中になって振り回していました」

 女性誌でも「衝撃の美少年」と特集を組まれる13歳は、漆黒の瞳を輝かせて語る。

 11月1日に改築を経て新開場する京都・南座のこけら落とし公演として行われる「顔見世興行」。その演目を見て思わず声をあげた人も少なくないだろう。2018年の歌舞伎界を沸かせた高麗屋三代襲名。直系による三代襲名は37年振り。新生南座で年の瀬を飾るのは、幸四郎・染五郎親子による『連獅子』。そして、史上初となる三代で演じる『勧進帳』。これはもう、ひとつの“事件”だ。

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今すぐにでも、もう一度踊りたい

市川染五郎さん  ©松竹株式会社 禁無断転載

──3年ぶりに南座が幕を開けます。染五郎さんにとっては、初の京都ですね。4歳の初舞台でもお祖父さま(松本白鸚)、お父さま(松本幸四郎)の間に立って、『門出祝寿連獅子(かどんでいおうことぶきれんじし)』で懸命な毛振りを披露されていました。

染五郎 その時のことはあまり覚えてなくて……最近、静岡朝日テレビで撮ってくださった当時のドキュメンタリー番組を見たのですが、稽古中、できないのが悔しくてワーワー泣いてました(笑)。早く本当の『連獅子』を踊りたかったです。

 一昨年、高知で1日だけ父と踊る機会があったのですが、その時は毛が絡まって思うような毛振りが出来ず……踊り終わって、「今すぐにでも、もう一度踊りたい」と思いました。

──幸四郎さんも幼い頃、頭に手ぬぐいを巻いて振っていたそうですね。お父さまは手ぬぐい、染五郎さんはマフラー(笑)。時代は違えど、家で同じことをやって遊んでいたわけですね。これはもう歌舞伎役者の家に生まれた者に流れるDNAなのでしょうか。

染五郎 そうですね。やっぱりカッコいいと思うんでしょうね。毛を振るのは楽しいです。宗家藤間流のお稽古に行っているんですが、この前も5歳の亀三郎くん(坂東彦三郎の長男)がコピー用紙を繋ぎ合わせて熱心に毛を作っていて、それをかぶって帰っていきました(笑)。

「親獅子を谷底に突き落とす」美貌の仔獅子の野望

『龍虎』 龍(右・幸四郎さん)と虎(左・染五郎さん) 撮影 渡辺文雄 舞台制作 松竹株式会社   

──8月の歌舞伎座では、幸四郎さんと父子で『龍虎(りゅうこ)』を踊られました。これは、天の王者である龍と地の覇者である虎の闘いの踊りです。太棹三味線と竹本の語りは猛々しく重厚で、青い月の光に照らされた岩山での、力の伯仲した両者の互いに一歩もひかぬ闘いは、凄まじい迫力でした。対して今度の『連獅子』は親獅子と仔獅子となりますが、どんな仔獅子を踊りたいですか。

染五郎 『連獅子』は親獅子が仔獅子を千尋の谷に蹴落とし、這い上がってきた仔獅子だけを育てるという伝説をもとにした踊りです。親獅子に負けないように、親獅子を谷に突き落とす勢いで頑張りたいです(笑)。『龍虎』のような、力が拮抗するような『連獅子』を踊りたいと思っています。

 深い愛を胸に秘めて、心を鬼にして子を谷底に蹴落とす親獅子と、それでも力を振り絞って健気に這い上がっていく仔獅子。親子ならではの迫力に満ちた公演になりそうだ。