開発費40万円、買い取り700万のAIアプリ
誰がこういうAIソフトを求め、発注するのか。大野によれば、ライブチャットの配信者たちを管理している事務所だそうだ。
こうした事務所からすれば、美しい配信者を多数抱えられればそれだけ視聴者を取り込むことができる。そういう意味では、こうしたAIソフトの開発は急務であり、億単位の開発費が動くのも納得できる。むろん、そこではかなり高度な技術が求められるため、数人の技術者が片手間でやってできるようなものではないらしい。
一方、日本国内の小規模な事務所であれば、さほど高い性能が求められない代わりに、数百万円から数千万円でソフトが売り買いされているという。こうした会社の要求は、顔を完全に変えることはできなくても、ある程度見栄えを良くしたり、タトゥーやリストカットの痕を見えなくしたりするような内容らしい。
大野の言葉である。
「TikTokにも、動いている顔をリアルタイムで美しく見せるビューティー系フィルターがありますよね。あれの延長線みたいなものなので、それほど開発は難しくありません。
僕もある事務所に、行為中でも顔が崩れずリアルタイムで容姿を補正できるAIアプリを開発して売ったことがあります。それは買い取りで700万円でした。開発費は40万円くらいで、開発期間は2週間程度です。
開発者は僕も含めて『社会貢献』をしているという認識だと思います。ユーザーからすれば好みの配信者が増えるわけですし、配信者からすれば顔バレや、最悪逮捕の不安なく大金を稼ぐことができるわけですから、みんなにとってウインウインなんです」
ライブチャットの業界では、大野の言葉は「正論」かもしれない。ただ、アダルト動画にせよ、ライブ配信にせよ、そこにAIが介在すればするほど視聴者が求めるリアリティからどんどん離れていく。それは本当に視聴者が求めていることなのか。
この疑問を投げ掛けたところ、大野は答えた。
急速に「個別最適化」する性の世界
「僕個人としては同感です。こういう開発をやっていて言うのもなんですが、どこかで揺り戻しがくるかもしれないという思いはあります。これから数年でいろんなアダルトコンテンツがAI化していくでしょう。違和感のない映像が作れる日も近いはずです。
でも、たぶん、どこかでユーザーの飽きがくるのではないか。リアルを求める声が大きくなるのではないか。そう思っています。ただ、その時にどういうリアルが求められるのかとか、リアルに戻せるのかというのは、別の問題だと思いますが」
大野のようなZ世代は、まだ子供の頃はAIがなかった時代だ。それゆえ、彼がそう考えるのは不思議ではない。
だが、思春期真っただ中の今の若者たちは、物心ついた時からAIに囲まれ、その中で恋をし、性欲を発散して育ってきた。そうした新世代がZ世代の大野と同じ意見を持つかどうかはわからない。
何にせよ、ここで言えるのは、若い人たちが目にしている性の世界がどんどんAIによって個別最適化、フィクション化しているということだ。
アダルト動画では個人の嗜好に完璧に合った動画が次々とレコメンドされ、動画どころかライブチャットの世界ですら完璧な外見を持つ女性が待っていて、クリック一つでアダルトトイによって振動を伝えることができる。
そんな世界で育った人たちにとって、「本当の性」とは一体何なのか。
その答えは、若い人たち自身もまだわかっていないのかもしれない。
INFORMATION
本連載では、「若者社会におけるAIの光と影」をテーマに取材を進めています。その中で「AIによるショート動画などのAIスロップの大量生産に詳しい方」「推し活アプリやAIパートナーへの課金に悩まれている方」「AI教育・AI保育の課題に詳しい方(教育・保育者含む)」を探しています。
取材に協力していただける方は、簡単なプロフィールと提供いただける情報を明記の上、著者・石井光太氏のホームページから連絡下さい。



