今年8月に93歳で死去した、マブチモーター創業者の馬渕隆一氏。馬渕氏は、同社を世界的企業に育てあげた経営者だったが、2002年には放火殺人事件に巻き込まれ、妻と長女を失っている。

 この事件の主犯格とされた小田島鐵男(当時62)は、放火殺人事件の前にも別の社長宅に押し入り、3億円を強奪する強盗事件で逮捕され、共犯者の村上一郎(仮名)の口から“凶行の予兆”が語られていた。取り調べを担当した元警視庁捜査一課理事官・大峯泰廣氏の記事(文藝春秋 2019年6月号)から一部紹介します。

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「皆殺しにしちゃおう」

 私は調室に戻って再び小田島と向かいあったが、ジリジリした気持ちを抑えられずにいた。たった今、調書を持った部下が地方裁判所へと走っている。裁判所で逮捕状を発付してもらうためだ。地裁には令状発付等について夜間対応が出来るように、当番の裁判官が詰めている。

 参考人のままでは小田島を留置所に入れることはできない。逮捕状が出なければ無罪放免だ。

マブチモーター社長宅での放火殺人事件が起きる前、主犯格の小田島鐵男は別の強盗事件で逮捕されていた ©時事通信社

 2時間あまりが経過し、やっとお目当てのものが届いた。

「おい、さっき言ってた“フダ”を見せてやるよ。強盗並びに監禁の容疑で、お前は逮捕だ」

 私は小田島に逮捕状を差し出した。時刻は午前0時を回っていた。

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〈小田島の逮捕後、警視庁は行方を眩ませていた村上を、強盗傷害容疑などで指名手配した。約2カ月が経過した11月29日、村上は茨城県つくば市内の民家に強盗に押し入ったところを取り押さえられ、逮捕される。警視庁に送られてきた村上を、大峯が取調べることになった〉

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 これは村上の妻から聞いた話だが、彼は1億5000万円の札束を自宅の仏壇の前に山積みにし、線香をあげて拝んでいたのだという。悪人だが妙な生真面目さがある男だった。

「やばかったんですよ」

 取調室での村上は、私に向かってこう切り出した。

「いやあ、小田島はね、『全員、皆殺しにしちゃおう』と言ったんです」