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ロッテ・岡田幸文引退で思い出したデビュー戦の興奮

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/13

 涙を流しながら場内を1周した。10月8日、千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアムにて岡田幸文外野手の引退セレモニーが行われた。マリーンズファンはもちろんホークスファンからも「岡田コール」が湧き起こった。あの時の若者が、いつの間にかここまでの存在になったのか。そう思うと私も胸が熱くなった。

 そしてふと当時の事を思い出したくなった。だから広報業務を一通り終えるとパソコンの中に残っていた当時の私の日記を見直した。2010年6月2日、本拠地での巨人戦。当時の監督はオリックス・バファローズの新監督に就任した西村徳文氏。プロ2年目の岡田のデビュー戦となったその試合、次のような文章がつづられていた。

引退セレモニー後にグラウンドを一周する岡田幸文 ©梶原紀章

デビュー戦での活躍を予言した西村監督

【あまりにも嬉しかったのか、熱すぎる試合に脱いだのか。その真意は分からない。試合後の西村監督はジャンバーを脱いでユニホーム姿で「西村マリーンズ」のコールに応えた。いつもは必ずジャンバーか、バッティングジャージを羽織っている指揮官。試合後にファンの前でユニホーム姿を披露したのは実はこれが初めての事。それほどこの勝利、そして大抜擢した岡田の活躍が嬉しかったのだろうと私は受け取った。

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「きょうは岡田を使うよ。彼は活躍する。絶対にきょう、いい仕事をするよ。練習を見ていればそれは分かるだろう」

 試合前練習中、西村監督は熱くそう語った。指揮官の予言はよく当たる。新外国人 ビル・マーフィー投手の先発起用。代打・福浦和也内野手。ルーキー荻野貴司外野手の活躍。2番・今江敏晃(現年晶)内野手。言い出したらきりがないほど。これまでズバズバと当ててきた。

 誰よりも早くグラウンドに姿を現し、走り回る岡田の姿を見ながら指揮官は自分に言い聞かせるように何度もつぶやいた。その強い思いは岡田にしっかりと伝わっていた。

 チャンスは四回に回ってきた。4連打で2点を奪った後、なおもチャンス。岡田に打席がまわる。打席に入る前、同級生の西岡剛内野手に声をかけられた。「積極的に打っていけよ。初球から打っていっちゃえ」。この一言で気持ちがスッと楽になった。

「初球はファウルになったけど、当たったことで凄く楽になりました。ゴロで前に転がりさえすれば1点は絶対に入ると思って打った」

 打球はフワフワと上がり、中前にポトリと落ちた。プロ入り初ヒット、初打点。チームとしては貴重な追加点が入った。終わってみれば、自慢の足も披露。プロ入り初盗塁を含む2盗塁を記録し、お立ち台へと導かれた。予言どおりの活躍に西村監督は嬉しそうな笑顔を見せた。ただ、すぐに強く言い放った。

「きょうはよかった。ただ、まだまだ。プロ野球人生はこれからだよ」

 指揮官の言葉をもちろん岡田自身が良く分かっている。「もちろん、これはスタートであって、満足するつもりはありません。チャンスをしっかりと掴めるように、また次の試合、頑張ります」と力強く答えた。

 08年に支配下選手ではなく育成枠にての入団。すでに職につき、小さい子供が2人いたことから妻には「無謀だ」と入団を反対された。それでも夢を捨てきれず、かすかなチャンスに賭けた。09年に支配下登録。そして今年、この巨人戦の前にチャンスが回ってきた。

 下から這い上がってきた選手がすぐに活躍するのが西村マリーンズの強さであり層の厚さ。二軍にはまだまだ逸材がチャンス到来を今か今かと待っている。「日替わりヒーローが出るチームは強い」。プロ野球界の格言は今のロッテにはピッタリの言葉となりつつある。浦和では「次はオレだ」とばかりに日々、汗を流して出番を待つ選手たちがいる】

 久々に読んだが、このように試合後に書いた当時の自分の興奮が伝わってくる文章だった。そんなチームはこの年、3位からクライマックスシリーズを勝ち抜き、日本一になった。日本一を決めるナゴヤドームでの日本シリーズ第7戦。決勝点を叩き出したのが岡田だった。そして試合後、マリーンズファンで真っ黒に染まったレフトスタンドの前で特技のバク宙を披露した。翌年は144試合に出場。その後の彼の活躍は書くまでもない。度重なるファインプレーは記憶にいつまでも残るだろう。

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