キーワードは「モノマネ」なのかもしれないと思う事がある。
今季、NPB史上52人目の2000本安打を達成した福浦和也内野手の事だ。若い頃、イチロー、ケングリフィーJr、松井秀喜、前田智徳、稲葉篤紀など、有名選手たちの打撃フォームを真似しては、なにか自分に取り入れられるものはないかと日々を過ごしていたという事は周囲からよく聞く話だ。
投手時代には野茂のトルネード投法も試してみて「左の野茂」と言われたこともあるというウワサすら耳にした(本人に確認をしたところ「トルネード投法を真似したことはあったけど、左の野茂と言われたことはない」との回答)。
超一流選手たちがなぜそのフォームに行きついたのか? 実際に真似をして試してみる。そして良いところは取り入れる。時には直接、本人に直撃をして真意を聞く。その研究熱心な姿勢こそが今日、幕張のレジェンドと呼ばれるようになった男の土台にあるのだ。
イチローの打撃映像を繰り返し見ていた過去
「とにかく色々な選手の映像を見たね。そしてそのフォームを試してみたり、実際にすぐに試合で実践したりね」
まだ下積み時代の頃の話として、ある民放テレビ局関係者から聞いたエピソードがある。当然、まだインターネットも普及していない時代。今のようなすぐに映像を検索できるYouTubeなどがなかった頃。スコアラーが撮影をした球団映像も限られていた。
当時、安打を量産するイチローのフォームに興味を持ち、仲の良かったテレビ局関係者に頭を下げ、局内の映像編集室にこもり、イチローの打撃映像を何度も繰り返し見ていたという。局内の編集室は福浦にとって最適な空間だった。資料となりうる試合映像は莫大にあった。簡単にスローモーションで見直すことも出来た。
各球団ともに映像処理能力が格段に進化した今ではスタジアム内でも容易に出来ることだが、当時はテレビ局内にこもり、血眼になりながら打撃映像を見続けるのが最良の選択だった。数時間、黙々と見入ってから「参考になりました」と満足そうに後にする若者の背中が印象的だったという。そんな選手は後にも先にもいない。憧れの選手のフォームを真似から始め、とことん追求する。それが背番号「9」の特技でもあったのだ。