3年半、ナポリに滞在

――ロージ監督は本作の撮影にあたり、3年半の間ナポリに滞在されたとうかがっておりますが、その3年半はどのような時間であったのでしょうか。

ロージ 今申し上げたように、「出会い」の時間だったと言えると思います。最初の出会いはナポリでした。そして、ナポリからヴェスヴィオ山に向かい、そこからまた新しい世界が広がりました。ヴェスヴィオ山の頂上からはナポリ、またポンペイやエルコラーノ、港を一望することができ、豊饒な世界がそこに広がっていることを実感したんです。これこそが、自分の撮るべき世界であることを感じました。そこからは、これらの場所の中で、人と出会い、物語を見つけていくための時間でした。

映画『ポンペイ、雲の下に生きる』

――消防局の職員や、子どもたちの勉強を見るティッティおじさん、東京大学の考古学調査チームなど、登場人物はどのように選定されたのでしょうか。

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ロージ 私の映画の登場人物は、いつも偶然の出会いから決まっていきます。ポンペイの遺跡における盗掘被害を調査する検事正や、博物館で働くマリアもそうですし、ティッティもそうですね。ティッティに興味を持ったのは、最初は彼の店が1950年代のキューバを思わせるような趣があったことからでした。そこで、店に焦点を当てる形で撮影をしたいと思ったのですが、その過程で、ティッティが店の中で、子どもたちへの本の読み聞かせや、宿題のチェックなどをしていることに気づいたんです。ティッティのもとには、いつも子どもたちが集まってきて、それが映画になると思いました。消防局についても、司令官たちが電話をとる部屋のルックに関心をもったことが当初のきっかけでしたし、考古学者たちについても、東京を訪れた際に、東京大学で彼らの話を聞いたことがきっかけでした。偶然の出会いを時間をかけて育んでいき、最終的にひとつの映画として結実させていきました。

映画『ポンペイ、雲の下に生きる』

「映画で描かれない時間」が見えてくる

――撮影の時間についてはいかがでしたか。

ロージ 3年半で、撮れた素材としてはおよそ300時間分で、撮影に充てた時間はおよそ2か月です。とはいえ、3年半はずっと現地で過ごしましたし、大事なのは、撮影していない時間も、すべて映画の中に組み込むということでした。

 写真家のルイジ・ギッリは、「フレームの内側に何があるかよりも、外にあるものが何なのかが大事だ」とよく口にしていました。画面に映るものそのものは限定的でも、その中に歴史や文化など、さまざまな背景が含まれていなければなりません。かつて『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(2013)でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞をいただいたとき、審査委員長であったベルナルド・ベルトルッチからもらったコメントを思い出します。「映画に直接には描かれていない物語も含まれているから、この映画は素晴らしい」。いわば、直接には描かれない物語を観客に感じさせることが、私の映画の核であるように思っています。

図を描きながら説明する(筆者撮影)