『Love Letter』『リリイ・シュシュのすべて』『リップヴァンウィンクルの花嫁』などで知られる、映画監督の岩井俊二氏。その初期作『スワロウテイル』への思いを語る。
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長編2作目の監督作品『スワロウテイル』が、9月で公開から30年を迎えました。
映画は単年度での評価が基本で、どんどん新しい作品が出ては消えていく。ところが本作は今年、4Kリマスター版として映画館で再上映してもらえることになりました。自分が作品のことを覚えているのは当たり前ですが、ほかにも覚えていてくれた人がたくさんいたということで、本当にありがたく感じています。
今回、改めて作業する過程で思ったのは、自分の中で一番初々しい作品ということ。企画自体は私がテレビの仕事をしていた時代、たくさんの方が観てくれたドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(1993年)を製作する前からありました。「いち映画ファンとして映画を作ったら、どんな映画がいいだろう」という、製作当事者ではない側の映画愛が込められていることもあり、ちょっと照れくさい気持ちが強いです。
『スワロウテイル』の舞台は、円がもっとも強かった時代の架空都市「イェンタウン」。ここに出稼ぎに来る移民たちが主役です。
日本人は戦後、非常に豊かな生活を手に入れましたが、そのありがたみを徐々に忘れていった。健康そうでいて、実は病院並みに手厚く介護される場所で飼育されているような、不健康な状態に陥ってしまったのではないか。そういう思いがありました。移民たちをメインキャストに据えたのは、当時の日本のそうした「気持ち悪さ」から脱出するアウトローを描きたかったからなんです。
それから時が経ち、いまや日本は経済で立ち遅れ、かつての豊かさを失いつつあります。
「むかしむかし、“円”が世界で一番強かった頃──」というナレーションで『スワロウテイル』は始まります。当時は「こんなこと言ってるけど、弱くなるなんてあるのかよ」と思いながら作っていました。誰もが円の強さを信じて疑わない時代、それをカリカチュアライズ(戯画化)していただけで、円がこれから弱くなる、なんて洞察は一切ありませんでした。あの頃は1ドル90円くらいの感覚でしたから、公開時と今とでは作品の観方がまったく変わってしまいました。
※約1600字の全文は、は月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年10月号に掲載されています(岩井俊二「円安時代の『イェンタウン』」)。

