『おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』(村木厚子 著)

 2009年、厚生労働省の局長だった村木厚子さんは、郵便料金割引制度をめぐる事件で逮捕・起訴されたが、無罪判決が確定。大阪地検特捜部検事による証拠改竄も発覚した。

 その後、村木さんは法制審議会の委員として取り調べの可視化などをめぐる議論に参加したが、日本の刑事司法が抱えるさまざまな問題に直面。そこで、ともに市民委員を務めた映画監督の周防正行さんらと5人で勉強会を続けてきた。本書は12年にわたるその活動の集大成だ。

「最初はビジネスパーソンが予期せぬ冤罪に巻き込まれたとき、どう対処すればいいのかという実用的な企画でした。ところが本作りが進むにつれ、冤罪は個人がノウハウを身につければ免れられるようなものではないことがわかってきた。そこで方針転換し、日本の刑事司法の仕組みや問題を、その歴史も踏まえて伝える一冊へと発展しました」(担当編集者の高月順一さん)

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 本書では、日本での刑事裁判の有罪率が99.9%となる背景を探りつつ、人質司法や供述調書、証拠開示、再審制度など、刑事司法が抱える問題を検証。痴漢冤罪や、ビジネスパーソンが経済事件に巻き込まれたケースも取り上げ、誰もが当事者になりうることを浮き彫りにしていく。さらに、取り調べの可視化をはじめ、より公平な刑事司法を実現する改革も提言。

「知れば知るほど、怖くなりました。捜査側が描いた事件の“ストーリー”に沿うよう供述が積み重ねられ、事実と違っても容易には修正されない。説明すればわかってもらえるはず、という考えが通用せず、むしろ黙秘が重要になるというのも驚きました」(高月さん)

 硬派なテーマながら版を重ねた背景には、思わぬ追い風も。刊行の約3週間前、日経新聞「私の履歴書」で村木さんの連載がスタート。刑事司法をめぐる法改正の議論とも重なった。本書の読者からは「日本の刑事司法がこんなことになっているとは知らなかった」という声が。無罪を訴え拘置されている人たちから手紙が届くこともあったという。

「村木さんの事件は特殊なケースだと思われるかもしれません。でも、普通の人が冤罪事件に巻き込まれてしまうことは決して特殊な話ではない。そのことを多くの人に知ってもらいたいですね」(高月さん)

2026年3月発売。初版1万2000部。現在6刷5万部(電子含む)