発症すれば100%死ぬ絶望に対し、19世紀後半に科学の力で挑んだのがフランスの天才化学者パストゥールです。彼は狂犬病で死んだウサギの脊髄を乾燥させ、「ウイルスの毒性を弱める」手法を開発しました。そして弱毒化したウイルスを犬に注射し、脳に到達する前に免疫システムに対抗する抗体を作らせるワクチンを生み出したのです。

日本では「過去の病気」だが…

1885年7月、狂犬に全身を14カ所も噛みちぎられた9歳の少年がパストゥールの下に運び込まれます。彼のワクチンは犬での実験は成功していたものの人間に対しては未承認のままでした。失敗すれば間違いなく殺人罪――パストゥールは人生最大の決断をし、10日間にわたってワクチンを少年の腹に注射しました。

ウイルスが脳に到達するのが早いか、免疫を作り出すの早いかのデッドヒートの結果、少年は奇跡的に生き延びたのです。このギャンブルが、現代の予防医学の扉を開きました。

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日本において狂犬病は、1950年代制定の狂犬病予防法により半世紀以上も国内発生がなく、過去の病気だと思われているかもしれません。しかし世界では今でも毎年数万人が発症し命を落としています。

私たちの毎日が平和なのは、医学の進歩と厳格なワクチン接種という「人間の知性が作り上げた見えない防御壁」が食い止めているだけなのです。最強の防御壁であるワクチン接種を怠った時、致死率100%の死神はすぐに私たちの脳をハッキングするために牙を剝くでしょう。

鈴木 悠介(すずき・ゆうすけ)
予備校講師、世界史YouTuber
YouTube「すずゆう世界史塾」主宰。早稲田大学在学中より塾で世界史を教え始め、卒業後に予備校講師となる。複数の有名予備校への出講を経て、現在は市進グループの「ウイングネット」、オンライン予備校「学びエイド」、トライグループの「Try IT」、大学別過去問演習講座「bridge+」など、全国配信の映像授業に出演中。またYouTuberとしての顔も持ち、受験世界史をメインに扱う「すずゆう世界史塾」と、世界史教養講義を配信する「すずゆうチャンネル」の2つのチャンネルを運営している。著書に『共通テストはこれだけ!世界史』シリーズ(文英堂)、『世界史探究用語 マルチ・トレーニング 改訂版』(旺文社)、『イチから鍛える世界史』シリーズ(Gakken)、『カリスマ講師の日本一成績が上がる魔法の歴史総合ノート』(KADOKAWA)など。
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