1ページ目から読む
2/2ページ目

「問題児だから、やっぱり気になる」と小川さんは言った

 次に尋ねたのが「セグウェイネタ」だった。まずは、その経緯を自ら説明してもらおう。

上田 ハワイでセグウェイを買ったんです。だけど、税関でそのまま没収されました。でも、沖縄でまた売ってたので買い直しました。

 報道によれば、一台500ドル(約6万円)で購入したものの、ハワイの空港で没収されて日本に持ち帰ることはできなかったという。このとき上田は、「トリプルスリーのお祝い」と称して、山田哲人の分も購入したのだという。僕は、素朴な疑問をぶつける。

ADVERTISEMENT

――どうして、そこまでセグウェイにこだわるんですか?

上田 最初はハワイで見て、「あれ見たことあるな。オレも乗りたいな」って思って乗ったら、めっちゃおもろかったんです。で、その余韻がすごく強かったし、空港で没収されたら、ますます欲しくなって。だから、沖縄で買って、東京まで船便で持ってきました。チームで持っているのは僕と、バレンティンだけです。

 その瞬間、少しだけ誇らしそうな表情になったことを僕は見逃さなかった。ということは、山田は没収されたままで、再びプレゼントはしなかったのだろうか?

――セグウェイをプレゼントしたり、インスタを見ていても山田選手とめちゃくちゃ仲がいいですよね。後輩との距離感って、どのように意識しているんですか?

上田 そこまで、「先輩・後輩」という壁を作りたくないなって思っていますね。それがいいことなのかどうかは、僕にはわからないけど、僕は下から堅く接してもらうのが好きじゃないんで……。冗談も言える関係がいいチームになる一つの要因じゃないのかなって思いますね。

 そして、いよいよ「罰金50万円騒動」に話が及ぶ。

――ぜひ、小川さんについて伺いたいのですが、上田さんが入団したときのファームの監督が小川さんでしたね。

上田 野球に取り組む姿勢を最初に学んだのは小川さんでした。ずっとガマンして使ってもらっていたので、後に僕が一軍でプレーするための経験を積ませてもらいました。5年目(11年)はずっとファームだったんですけど、シーズン中盤に一軍に呼ばれて、そこからずっと使ってもらって、クライマックスシリーズまで出させてもらいました。でも、小川さんにはかなり迷惑をかけましたね……。

――「迷惑」というのは、例の罰金騒動のことですよね?

上田 そうです(笑)。あれは報道されている通りですね。せっかくずっと使ってもらっているのにミーティングに遅刻して……。いや、遅刻というか、本当に知らされていなかったんですけど、「遅刻」という形になって。僕自身も、「これで試合に出れないな」って思ったのに、その後も使ってくれて……。そのときは罰金を渡しましたけど、僕のことを考えて後で、コッソリ返してもらいました。

 この時点で僕は、すでに小川さんに「罰金騒動」のことを聞いていた。小川さんは「つい、《罰金50万円》って言ってしまったんだけど、当時のあいつにそんな金があるわけがないんで、“どうせマネージャーから借りるんだろう”と思っていました。だから、そのままマネージャーに返せばいいと思っていたんだけど、マネージャーに借りずに自分で工面したので驚いた」と語っていたことを思い出す。

 この後も、上田は小川さんに対する感謝の言葉を続けた。一方、当時SD(シニアディレクター)だった小川さんも、上田に対してこんな言葉を残している。

「僕の立場でこんなことを言っちゃいけないんだけど、上田とか畠山(和洋)とか、問題児はやっぱり気になりますよ。川端(慎吾)みたいな優等生タイプなら、何も心配ないんだけどね(笑)」

 このインタビューから2年を経た今、小川さんはSDから監督に復帰し、上田はプロ12年目のシーズンを終えた。ファン感でピコ太郎に扮したこともあった。あるいは、試合中にミスやエラーがあると、たとえ上田は無関係であっても、「何があった! また上田か!」と言いながら、慌てて外に飛び出す男の画像が、一つの様式美であるかのようにネット上に頻出する。小川監督の言葉を借りれば、多くの人にとっても、「問題児だから気になる」し、ついイジりたくなる存在なのだろう。

 ファンにとっても、実に愛すべき存在である上田剛史。来季はプロ13年目。甲子園で斎藤佑樹からホームランを放ったあの日の輝きを、ぜひプロの世界でももう一度。上田ならできる、まだまだ伸びる。来年こそ、いい意味で言いたい。「何があった! また上田か!」と。……ようやく上田の原稿が書けた。少しだけ胸のつかえがとれた気がする(笑)。

※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/9266でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。