先日、上田剛史が9月、10月度の「スカパー! サヨナラ賞」を受賞した。9月4日、神宮球場での対中日ドラゴンズ戦。9回裏に6点差を追いつき、同点のまま迎えた延長11回裏、二死からサヨナラ3ランホームランを放ったことを評価されての受賞だった。台風一過のこの日、強烈な暴風雨の影響を受けてスタンドはガラガラだった。空席の目立つ神宮の観客席でこのシーンを見て、僕は歓喜した。観衆はわずか1万4000人程度ではあったけど、球場が大「上田コール」に包まれたことは、記憶に新しい。この受賞の知らせを聞いたとき、僕は思った。
(よし、いまこのタイミングしかない……)
そう、今こそ上田剛史について書こう! 文春野球での登板も残り少なくなった今、満を持して上田のことを書こう。僕はそう決めたのだった。実は、上田に対してはずっと心苦しい思いを抱いていた。というのも、昨年出版した拙著『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)において、僕は上田にインタビューをしている。取材テーマは、上田を物語の中心に据えて、明るいヤクルトを象徴する「ヤンチャ者の系譜」を書こうと思っていたのだ。
しかし、この本では実に多くの現役選手、OBたちにインタビューをしたことで、500ページに近い分量になりそうだった。そのため、どうしても「どれかを削らなければならない」ということで、この章を削除し、せっかくの上田のインタビューを丸々カットしてしまったのだ。以来ずっと、上田の姿を見るたびに僕の胸はチクリと痛んだ。だからこそ、今こそこのタイミングで、あのときお蔵入りした上田インタビューをご紹介したいのである。
先に記したように、取材テーマは「ヤンチャ者」だった。だから、彼に聞いたのは、ヤクルトファンなら誰もが知っている「知人男性ネタ」、あるいは頻繁に更新される「インスタネタ」、ハワイで購入したセグウェイを税関で没収されたにもかかわらず、改めて日本で再購入するほどこだわった「セグウェイ」について。そして、若手時代にミーティングがあることを知らずに「遅刻」して、当時の小川淳司監督から罰金50万円を食らったものの、実は内緒で返してもらっていたエピソード……。つまり、王道、正統派とはまったく異なるインタビューを敢行したのだ。以下、その顛末のごく一部をご披露したい。
「知人男性」はおいしいネタだった
最初に聞いたのは「SNSネタ」だった。最近でも上田は、話題の「TikTok」をいち早く取り入れ、奥村展征や塩見泰隆のダンス動画をアップしている。
――上田さんと言えば、インスタの更新がすごく頻繁ですよね。これはファンサービスを意識しているんですか?
上田 多少はありますね。最初は軽いノリでやっていたんですけど、今となってはフォロワー数も増えてますんでね。(15年の)優勝以降、一気に増えましたね。あとは例の「知人男性」、アレも結構大きいと思いますね。ファンの人から、「更新待ってます」ってよく言われるので、なるべく間をあけずに、意識して更新しようかなって思っています。
実にありがたい。自ら「知人男性ネタ」を振ってくれた。ご存じない方のために簡単に説明すると、山田哲人や上田たちが、女性陣とレストランに入る姿を「合コンだ!」と『FRIDAY』誌にスクープされた。しかし、それは球団関係者たちとの単なる会食でしかない、たわいもない写真だった。山田の隣には上田も写っていたのだが、なぜか誌面には「上田剛史」の名前はなく、顔に目線をつけられた上で、「知人男性」と書かれていたのだ。その点について尋ねてみた。
――『FRIDAY』で「知人男性」と書かれたことについてはどんな気持ちなんですか?
上田 別にショックではなかったですね。まぁ、「笑いに変えればいいや」という感じです(笑)。だから(15年の)優勝のときにも、「知人男性」というタスキをかけてビールかけをしたんです。それもあって、ファンの人にも「知人男性」っていうフレーズがインパクトに残って、逆によかったと思ってますね。
――目線を施された「知人男性」ピンバッジが、公式に作られもしたし、ショックというよりは、逆に「おいしい」という感じなんですか?
上田 そうですね。選手たちも、僕の近くに来て指で目を隠して、「知人男性」って言いながら、いじってきたりしますからね。球場でも、ファンの人に「知人男性!」って声かけられたりもするし、いいネタというか「おいしいな」って思います。でも、もういいんじゃないですかね。僕ももう、「そろそろしつこい」って思い始めています(笑)。
このインタビューは、16年のオープン戦の試合後に神宮球場で行われたのだが、僕はまったく野球とは関係のない質問ばかりする心苦しさを覚えていた。それでも上田は、どんなくだらない質問にも淡々と受け答えをしてくれていた。ナイスガイだ。