あの惨めなワカゾーはどこへ行った?
開幕シリーズの石川直也の姿を思い出した。開幕第2戦、9回表だ。四球でランナーをためて西武・山川に3ランを打たれるなどして大量4失点。今日のトンキンと同じように味方の追撃ムードをフイにした。あの惨めな姿。ベンチに戻ってじっと顔を伏せていた。吉井ピッチングコーチがアゴを上げてやると、目が真っ赤だった。衝撃的なシーンだった。僕らはこの男に2018年シーズンのクローザーを任せるのかと思った。
僕はあの姿を見た瞬間、何かスイッチが入ってしまったのだ。「あんな惨めな姿を晒しやがって頭にきた」というのにも似ている。「あんな無防備な姿を見せてしまうワカゾーを放ってはおけない」という感情もある。徹底的に応援しようと決めた。激励原稿も書いた。球場でも自宅のテレビの前でも「直がんばれ!」と言い続けた。夏休みにはわざわざ山形県予選を見に行った。あのワカゾーがどんなとこで育ったのかと思って。で、順当に勝ち進んだら「山形中央vs日大山形」の準々決勝だとわくわくしてたら、石川直也の母校、山形中央が3回戦負けしてしまった。といって日大山形も負けて、好カード自体が跡形もなく蒸発していた。もうしょうがないから鉄砲町(山形中央高校の所在地)の辺りを散策して、冷やしラーメン食べて帰ったよ。
あの惨めなワカゾーはどこへ行った? ほんの昨日のことだ。CSファーストステージ第2戦、2点リードの場面で最終回のマウンドを託されたのは石川直也だ。誰もが締めくくりは石川直だと思っていた。ファンも、栗山監督もチームも、ブルペンスタッフも、たぶん相手のソフトバンクも。もちろん石川直本人も。当たり前のように交代を告げられ、当たり前のようにマウンドへ上がる。
敵の応援に囲まれたヤフオクドームの真ん中だ。何万という視線が注がれている。そこでの立ち居ふるまい、マウンドをならし、投球練習をし、捕手の鶴岡慎也や1塁中田翔に目をやる仕草が板についていた。この落ち着き、経験。彼がこの1年戦い抜いて身に着けたもの。今季成績は52試合登板、1勝2敗19S、防御率2.59。生傷をこしらえて勝ち取った数字だ。
9回裏、ソフトバンクの打順は5番デスパイネ、6番グラシアル、7番松田宣浩だった。先頭のデスパイネに第1球を投じる。ストライク。151キロのストレートだ。身体がやわらかく使えている。あの惨めなワカゾーはもうどこにもいない。三振、三振、レフト邪飛で三凡ゲームセット。心が震えた。僕はCSの9回に石川直を投げさせたくて、打たれても抑えても財産になると思っていた。そうしたら想像のはるか上を行く見事なマウンドを務めてくれた。
今年は石川直のビッグチャレンジを見た。横尾の失意と、CSでの爆発を見た。渡邉諒は使ってもらったのに結果が出せず、眠れないだろう。清宮幸太郎は最後に出番をもらえなかった。思いは尽きないよ。今年はいいことばかりじゃなかったけど、悪いことばかりでもなかった。ちょうど3位くらいのところだ。
戦い終えたファイターズにおつかれ様を言いたい。ありがとう。強くなれ。ありがとう。
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