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福良さんありがとう。オリックス最終戦、アホみたいに泣いた

文春野球コラム ペナントレース2018

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 7回裏、宮西尚生が出てきた。敵地・京セラドームのオリックス最終戦だ。宮西は昨日、打たれたばかりだ。このところ2戦連続でリリーフに失敗、負け投手になっている。さすがの鉄腕も疲れの色は隠せない。僕はテレビの前で正座だ。宮西たのむぞ。先頭の大城滉二にけっこういい当たりをされたが、センター西川遥輝が好捕。ふうっと息をついたら「J SPORTS STADIUM」の実況席がのんびりした話を始めた。

大前一樹アナ「まぁ、このままこの人がこの回しっかり抑えて、チームが勝ちますとホールドポイントが325ということになって、プロ野球記録ということになって来るんですよ」

解説の野田浩司さん「あぁ……。ホールドポイントが出来たのは何年前でしょうね。彼がデビューしたときはおそらくもう出来てますよね?」

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大前アナ「それはもう出来てますね」

野田さん「そうですよね。だからそこはもう(救援登板の記録は)全部含んでるわけですよね。2000年代前半ぐらいじゃないですかね。僕は2000年で引退したんですけど、たぶん2000年はなかったと思うんです」

大前アナ「あ、そうですか!」

野田さん「その後だと思うんですよね、たぶん」

 その間、伏見寅威がセカンドゴロでアウトになってるわけだが、僕はちょっと面白くなっちゃって緊張感が切れた。「いやー90年代でしょ。初代ホールド王、島崎毅でしょ」とツッコミを入れる。グリーンスタジアムでイチローに打たれたじゃん。ビジター中継はやっぱりテンションが違うんだなぁ。僕らのようにハラハラしていないんだ。「宮西尚生が2戦連続で試合を壊す非常事態」がピンと来ないだろうし、敢えてここで宮西を使った意図がピンと来ない。だからすっかり雑談モードなんだ。

「何にも盛り上がらない記録達成の瞬間」の切なさ

 宗に代わって代打・飯田大祐が出てきたところで、さすがに訂正が入った。「調べましたら、ホールドの仕組みが出来たのはパ・リーグが先で96年だそうです」「あ、そうですか。すいませんウソばっかり言いました(笑)」。誤解なきようにお願いしたいのだが、僕はこののんきな感じをぜんぜん責めてない。むしろ過剰にピリピリしていた自分に気づいて、頭をかくような感じだ。こっちばっかり入れ込んでるけど客観的に見たら消化試合なのかもしれないなぁ。

 ただ何となく不安なのは大前アナがさっき言った「チームが勝ちますと」だった。飯田がセカンドゴロを打ったとき、ちょうど「同点の場合でもホールドはつくんですよね」という話が出ていて、そのまま「飯田が倒れてスリーアウト、宮西今日のゲームは7回を三者凡退に抑えました。ゲームは終盤7回を終わっています」と締めた。で、CM明けても特にプロ野球記録達成の言及はなし。これはカン違いですよね。(勝ってる状態で次の投手に渡せば)その後、チームが負けたってホールドはつきます。したがってホールドポイントの単独新記録325はたった今、達成されたんだけど、何にも盛り上がらない。結局、試合終了まで(ファイターズが勝った場合にホールドがつくという)カン違いが続いていた。

 これは何なのかというと秋の気配だと思う。シーズンがもう終わる。試合が淡泊になる。実況クルーも身が入らない。Aクラス、Bクラスはほぼ決まってしまった。野田浩司さんにも大前アナにも、ミスをわざわざ言挙げするようなことになってまことに申し訳ないのだが、僕はこの「何にも盛り上がらない記録達成の瞬間」に、ものすごく感傷的な気持ちになって、あぁ、シーズン本当に終わるんだ、もう取り返しがつかないんだとしんみりした。

 僕ら野球バカは野球から出られなくなってしまう。シーズンの大勢が決しても、まだまだミラクルが起こるかもしれないと考える。個人の記録達成を(頼まれもしないのに)願っている。それも宮西の325ホールドポイントみたいな大記録だけじゃない。清宮2割に乗せないかなぁ的な、本人も気にしてないようなことをひたすら考える。夜中、あと何打席で何本ヒット打てばちょうど2割に乗るなんて電卓で計算する。清宮の活躍を願うのは本心だけど、実際問題、これは野球から出たくないのだ。

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