という訳でクライマックスシリーズも佳境です。本物の野球の方も、この文春野球コラムペナントレースも。本物の野球の方は、ファイターズがファイナルステージに進めなかったこともあり、全くただの一観客としてのんびり試合を楽しんでいればいいのですけれども、ここではそうも言っていられません。たまの代打だった筈が、とうとう最初からメンバー表に名前が書き込まれてしまうこととはなりました。文春野球日本ハムチーム、選手層が果たして厚いのか薄いのか非常に心許ない状況ですが(自分で言うな)、日本シリーズ進出を目指して頑張って参りましょう。

 さて、ファイターズの話です。何しろファイナルステージには進めなかったもので(しつこい)、ファーストステージの話題になるのですが、第2戦の日、夜の「プロ野球ニュース」を観ていました。

 この日決勝タイムリーを打った大田泰示、第1戦ではノーヒット、しかも相手先発を引きずり降ろしての満塁の好機に凡退しています。その心中をしみじみと思いやっていたガンちゃんこと岩本勉さん。しかし笘篠賢治さんは、ちょっと強い口調でこんなようなことを言ったのですね。

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 大田はここにいるというだけで嬉しい筈だよ、もっと辛い思いをしてきているんだから。

 なにぶんにも録画もしていませんでしたし再放送を観ることもなかったので、笘篠さんの言葉を正確には再現できないのですけれども。これを聴いた瞬間、あ、と思ったのです。

CSの舞台で結果を残すことができなかった大田泰示 ©文藝春秋

プロ6年目の大田泰示の置かれた立場

《大田泰示の4番は「期待」なのか、「最後のチャンス」なのか勘ぐる》

《胴上げ翌昼の『4番大田』に酔いが覚めた》

 いきなり何かとお思いでしょうが、『みんなの あるあるプロ野球 グランドスラム』(カネシゲタカシ/野球大喜利、講談社)という本に収録されている「巨人あるある」の中の2つです。この「あるある」シリーズは2012年春から5年間、毎年1冊ずつ刊行されていて、『グランドスラム』は4冊目。つまり2014年シーズンを振り返ってのものになっています。ジャイアンツがセ・リーグ3連覇を達成したこの年、プロ6年目の大田泰示はこんな感じだったのですよね。

 押せ押せムードの満塁機で、粘ることもできずに凡退したのがもしも他の選手、たとえば高卒ルーキー清宮幸太郎だったとしたらどうでしょう。将来の大砲候補筆頭の彼ですが、今はまだまだひよっこの部類。その将来性に大きな期待はかけられていても、今現在の戦力として本気で頼りにされるところまでは行っていません。結果が三振でもゲッツーでも、その時がっかりされるだけです。おまえが打てなかったから流れを手放した、負けた、とは言われない。

 高卒ルーキーがそんな風なのはいわば当たり前のことですが、それが5年も6年も続いていたとしたら。本気で期待されることのない選手の、その重苦しさは想像するに余りあるものがあります。

 1軍の主力選手としてポストシーズンの試合に臨み、活躍を期待される。負けた試合のチャンスで打てていなければ、敗因の1つとして名前が挙がりもする。

 そういう立場の選手になった、ということ。それ自体が既にとても素晴らしいことなんだ、ということ。

 笘篠さんの言葉を噛みしめていたら、これはひとり大田泰示に限らず、この試合の先発投手だった上沢直之にも当てはまることだなあと思えてきました。