文春オンライン
文春野球コラム

日本ハム・上沢直之、苦しんだ末にたどりついた目標は「笑顔」

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/17

 この頃、私が思うのは「笑う」姿が見られることの喜びと、この笑顔を作ることが出来るまでの努力と時間の流れの尊さ。

 今シーズンの開幕直前。ファイターズファンはそれぞれに開幕投手が誰になるのか自分なりの予想をしていました。というのは、有力と言われていた有原投手がキャンプ中にケガをしたこともあり、チームからは特別な発表がなかったからです。

 私はというと、早い段階から上沢投手で間違いないと思っていました。理由は簡単。今季、ファイターズは北海道のチームになって15年目。その記念の年に背番号が「63」から「15」に変更になったのが上沢投手。これを縁付けなくてどうしましょう。例えこの事を抜きにしたとしても、上沢投手のキャンプからの今年のコンディションの上げ方は素晴らしく、しっかりと合わせて来ていると感じていたのです。

ADVERTISEMENT

 私は予想しました、そうか、これはきっとそう。3月15日15時に発表なんですね、栗山監督。だって今までそうですから。3年前には背番号にちなんでキャンプ中の11時11分に大谷選手の開幕投手を発表しましたし、去年も背番号にちなんで(3月)16日に有原投手と発表しましたもんね!

 ……してたじゃないですか……監督……。

 結局、その日は何も起きることはなく、私の予想は見事外れ、今年のファイターズの開幕投手は新外国人投手のロドリゲス投手だったことは皆さんご存知の通りです。ですが、ここまでの上沢投手の活躍も皆さんご存知の通り。勝ち星は巡り合わせがものを言うこともある、開幕カードで投げなかったからこその巡り合わせかもしれません、前半戦だけで自己最多タイの8勝目をあげていて、目標の二桁勝利はすぐそこです。

前半戦だけで自己最多タイの8勝目をマークしている上沢直之 ©文藝春秋

試合中にも感情豊かになったきっかけ

 とても表情豊かな選手です。取材やインタビューの場もそうですが、試合中のマウンドでもポーカーフェイスとは真逆のところにいるのが上沢投手。思ったように球がいけば笑顔も出るし、うまくいかない時にはシマッタという顔もする、打たれた時は思いきり悔しがり、喜びのガッツポーズに至っては今やいくつものパターンがあります。

 この上沢投手の姿にもうすっかり慣れた私たちですが、こんな風に試合中にも感情豊かになったのは間違いなく、昨シーズンからです。この姿に行き着くまでに彼には一度、野球の面ではまったくと言っていいほど笑うことの出来ない大きく沈んだシーズンがありました。

 2011年のドラフト6位、専大松戸高校から入団。高卒同期には、松本剛選手、近藤健介選手、現ジャイアンツの石川慎吾選手がいます。最初の2年はチームがファームでじっくりと育成。満を持して3年目で1軍先発デビューするといきなり8勝をマーク。このままブレークかと期待されましたが、翌年から右ひじの痛みに悩み、オフに人生初の手術を決断します。

 ほぼリハビリにあてた2016年シーズンは……そうです、ファイターズが10年ぶりに日本一になったあの年。野球そのものが出来ない毎日は、つらいし、苦しい。術後の肘の痛みがなくなってきてやっと投げられるようになっても、調子が上がらない。もう治っているはずなのに、自分の思うように投げられないのはどうしてなのか。練習も嫌になる。朝が来てまず思うのは「ああ、また野球が始まる」。自分の所属するチームが日本一になったこともニュースで知り、自分がいなくても優勝したのなら自分の居場所はもうないんじゃないかとまで思いつめる。上沢投手にとって野球人生の中で一番苦しい時が、ファイターズファンが沸いたあの年だったのです。

文春野球学校開講!