【えのきどいちろうからの推薦文】
2度目の代打出場、青空百景さんを紹介させてください。前回書いてもらった「ミステリマニア、栗山英樹監督の著書からファイターズの謎を強引に解く」は大反響をもたらしました。村瀬コミッショナーから直々に「もっと読みたいです。スタッフ会議に推挙するのでレギュラーに格上げしませんか?」と打診があったほどです。起用に関しては考えがあり、格上げ案自体は見送ったんですが、今回はコラム愛読者の熱いご要望にお応えした形です。彼女が切り拓いてくれた「単なる一ファンが書くコラム」の道に、皆さん続いてください。原稿送ってきてよ。では、みんなで「青空選手」を送り出しますか。突撃突撃、あーおぞら!
◆ ◆ ◆
文春野球ペナントレースをお読みの皆様、お久し振りでございます。2度目の代打起用となりました青空百景です。再びのお目汚し、ご用とお急ぎのない方はしばしおつきあい下さいませ。
先月30日の対バファローズ戦で宮西尚生が通算600試合登板と日本記録タイ273ホールドを達成しましたね。翌日の道新スポーツは金文字で「F史上最強の中継ぎ」と大見出しを打ちました。
《ブルペンとかでも、若手とかは結果が出ないと焦って投げすぎたりしちゃうけど、そういうのは絶対ない》とは鶴岡慎也の宮西評ですが、この「投げ過ぎない」というのは以前からもよく聞くところ。以前、鍵谷陽平が「投げ込み過ぎるとシーズン最後まで体がもたないと注意された」というようなことを語っていた記憶があります。これは本人の考えだけではなく、吉井理人投手コーチの影響もあると思うんですね。
吉井コーチが考える「リリーフ陣の準備」
既に3冊の著書(1冊は共著)がある吉井さん、この春初めて現役コーチの肩書での新刊が発売されました。その『吉井理人コーチング論』(徳間書店)の目次、第3章のところ。《万全の準備はむしろ弊害を生む》《投げないと肩がつくれないというのは思い込み》《「とりあえず」はNG。疲労させるだけ》等々の小見出しが並んでいるのです。
《監督の立場からすれば、リリーフ陣の全員が「いつでも行ける」状態が理想なのは理解できる。相手の打順や、打者と投手の相性なども加味して、最善手を打ちたいからだ。だが、リリーフ陣がその期待に応えようとすれば、常に誰かが準備しなくてはいけない。》
《「やっぱり出番ないみたいだから待機しておこう」
「出番があるかもしれないから、もう1回やってくれ」
また指示されたので投球練習をしていると、「あ、でも今はいい」となる。
こういうことをしていると、1試合の間に3、4回肩をつくることになる。1回あたり25球だとすれば、登板前の時点ですでに75~100球ぐらい投げている。》
『グラゼニ』凡田夏之介は何度も肩をつくる
こういう記述そのままの場面が、マンガ『グラゼニ』(原作・森高夕次、作画・アダチケイジ)に出てきます。コミックス2巻に収録の「安全な株・危険な株」。
ご存じの方も多い作品でしょう。主人公・凡田夏之介はこの話の時点ではまだ若く、主にワンポイント起用の左投手です。3回にブルペン入りして投球練習。6回でまた投球練習。左の代打が来るかもとまた投げ(結局代打は出ない)、味方投手に代打が送られるかもとまた投げ(結局投手に打順は回らない)、合計80球は投げていながら出番のないまま最終回。本来の守護神は抹消中、代役の信頼感はいまひとつで、最後まで任せて貰えません。2死走者2塁で4番の打席、左打者ということで予想外の出番が回ってきた夏之介。この打者を抑えるのではなく、走者を牽制で刺してセーブをあげることになるのですが。
この試合をマンガ家・牧場が観ています。彼は夏之介への取材を基に「リリーバーK」という読み切り作品を描いており、いつか野球マンガの連載をしたいという夢があるんですね。そういう青年が、ただひたすらブルペンで投げ続ける中継ぎ投手の現実を粛然として見つめている。夏之介が取材で語っていたように、今日の試合もそのまま終わった……とはならずにまさかの幕切れ、牧場は《あんなにブルペンで肩を温めていたんだ だからあんな素晴らしい牽制球が投げられたんだ!》と感動します。夏之介が実感を込めて語った何度も肩をつくる苦労は何だかうやむやのうちに正当化された感じで、終わりよければ全てよしとなりました。