もしも吉井コーチだったなら……
さて、一方の吉井流。
《日本の投手はブルペンで球数を投げすぎる傾向がある。肩を温めつつ、速球、変化球、フォーム、いろいろなところを確認しておきたいのだ。だいたい25球くらいかける投手が一般的だろうか。
僕は、これはちょっと多すぎると思う。》
《肩をつくる球数を減らすのと同時に、準備は1回だけ、出番の直前だけにしたい。》
《「準備は1回だけ、15球以内で」なら、負担はぐんと減る。これが何試合も積み重なっていったら、とても大きな差になる。どちらがシーズン終盤までコンディションを維持しやすいかは明白だ。》
もしも吉井コーチだったなら『グラゼニ』は全然違う話になります。夏之介が3度も4度も肩をつくらされることはないし、臨時だろうと暫定だろうと代役だろうと、クローザーを任せると決めたからには右打者左打者は関係ない。目先の1勝のみにこだわることなくチームの成長を、と。
あ、今「クローザー」と私は書きましたが、実はこの「安全な株・危険な株」の中でクローザーという言葉は一度も使われてないんですね。抑え投手のことは全てストッパー。2011年のマンガとしてはちょっと昔っぽい感じを受けますが、つまりそれが『グラゼニ』なのだと思うのです。
リリーバーは先発投手よりも“格下”なのか
先発になりたいと思わない中継ぎはあまりいないと言う夏之介。自分は連載枠を獲得してみせる、あんたは先発転向してみせろと言う牧場。未熟未完成な若い投手である夏之介の成長と成功は、牧場が描いたスーパーリリーフ、リリーバーKのようになることとしては想定されていません。先発投手になることだけなんです。実際、そのようにストーリーは進行して現在に至ります。中継ぎは先発よりも格下。ひと昔前ふた昔前のその前提が、『グラゼニ』の世界には未だ厳然としてあるのですよね。
でも。
《リリーフ一筋でやっている身としては、若い選手がこういう記録を目標にしてくれたらうれしいです。》
記録達成についての宮西尚生のコメントです。朝日新聞には《打たれて心が折れかけたことは何度もあった。それでも、山口鉄さんや岩瀬さんがつくったリリーフの記録を目標に乗り越えられた》という言葉も紹介されていました。これまで彼の言動にリリーフは格下という含みを感じたことは一度もありません。抑えてなんぼ、目立ったら駄目という口癖も、そういう役割だからということ。どちらが上なのでも下なのでもない。
快挙を伝える各紙記事では《脚光を浴びにくいポジション》《縁の下の力持ち》等と評されていましたが、道内メディアの報道を日々ご覧のファイターズファンの皆様、いかがでしょう。3年前にはキャプテンも務め、オールスターゲームにはファン投票選出で出場する宮西尚生、そんなに地味な選手でしょうか。バリバリに存在感(も態度も)でっかくないですか。
チームを救うヒーロー、リリーバーM。
宮西尚生はファイターズの大スターです。
(追記:そして7月6日、対マリーンズ戦で日本新記録となる274個目のホールドを挙げました。貫禄の三者凡退でした。おめでとうございます!)
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