「こんな悲劇は、絶対に繰り返してはいけない」――。2019年4月19日、池袋で12人が死傷した「池袋高齢者暴走事故」をめぐり、遺族と加害者家族は同じ願いを胸に、一冊の本の出版に同意した。
加害者・飯塚幸三氏は禁錮5年の実刑判決を受けたが、刑期を全うすることなく2024年10月に獄中死。TBSテレビの守田哲氏が7年間の取材をまとめた新刊『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』(文藝春秋)が、その記録である。
守田氏が最も数多く接触を重ねた人物は2人いる。事故で妻の真菜さんと娘の莉子ちゃんを失った松永拓也氏と、飯塚幸三の長男だ。松永氏とは100回以上、長男とは数十回にわたり面会したという。
痛ましい事故を「記録する」覚悟
本書の核心のひとつが、飯塚の車に搭載されたドライブレコーダーの映像だ。守田氏は数年を要してその映像を入手した。しかし映像には特定の被害者が映っており、記述には倫理的な問題が生じる。
守田氏はすでに亡くなっている松永真菜さんと莉子ちゃんの代理として、夫であり父である拓也氏に相談した。拓也氏は「心情的な理由で映像を全て見たことはない」という。それでもなお、「事故の現実を記録して欲しい」という理由で申し入れを承諾した。
遺族と加害者家族の双方がこうした決断に至った背景には、「松永拓也という稀有な遺族の影響があった」と守田氏は記している。その経緯は本書の後半で詳述されるという。
「高齢ドライバー問題は、若いうちは家族として、老いてからは当事者になる」――守田氏がこの事故を「時代の鏡」と位置づけ、早く伝える必要があると判断した理由がここにある。
遺族の心の傷はいまも癒えておらず、加害者側への誹謗中傷もなお続いている。それでも2人は、記録することを選んだ。
(つづく)
