代々医師を輩出する一族で、「期待されない子ども」として育った次男・池田利雄。浪人を重ねて医師となった彼は、やがて病院経営でも才覚を発揮し、一族の病院の全権を握るまでになる。
ところが、成功すればするほど、彼のそばから人がいなくなっていく。
濱嘉之氏が「ほぼ実話」と語る小説『孤高の血族』。利雄はなぜ、すべてを手に入れながら孤独になったのか。インタビューから、その人物像に迫る。
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――利雄は、医師一族の中で「期待されない子ども」として育ちます。なぜ、こういう主人公にしたのでしょうか。
濱 僕の周りで、本当に裕福な家族なのに、兄弟仲が悪いという事例が結構ありまして。長男はできるけれど、次男、三男の出来が悪いとか。お父さんが経営する会社の支店をいっぱい作ったのはいいけれど、誰にも任せられないとか。それで心を病んだ方も何人も見てきました。
医者の中にも、僕の知っているところで何軒か跡目争いのようなものがありました。それなら医療の世界で書いてみたらいいのかな、と。大学病院の医療事故などが一時期問題になったこともあったので、実際にあったことも少し入れながら書いていきました。
――その「期待されない子ども」が、やがて医師として、経営者として力を持っていきます。
濱 正義のヒーローばかり書くと、どうしても警察小説のようになってしまいます。かといって、警察小説の中ではダークヒーローをあまり使いたくない。僕のもう一つの得意ジャンルである教育の世界を描く中でもあまり書きたくない。
そうなった時に、ダークヒーローで生き延びていく医者というのは何人も見てきているし、医療の世界なら描けるなと思いましたね。
――利雄は悪い手だけでのし上がる人物でもありませんね。
濱 そうです。当然すべてが悪い手ではなくて、彼の才覚で使えるものを使って病院を大きくしていくんです。
僕は医療機関を相手に、危機管理について話をしていた立場でもありました。だから、問題が起きた時にどういうふうに対処するのがいいのか、逆にどうやったら失敗するのかということも見てきた。
利雄も、問題が起きたらただ処理するだけではない。自分の組織を大きくするために、医療ミスを利用して問題のある医者を追い出したりもする。追い出された方にも理由はありますが、そうやって組織を大きくしていくわけです。
――医師としても経営者としても成功する。それでも、利雄を幸福なまま終わらせませんでしたね。
濱 最終的に病院を大きくしたからといって、「世のため人のために何をやったんだ」と考えた時に、利雄は医療の世界で何もやっていないじゃないかと。
もちろん彼は人の命を救っていますし、病院を大きくしたことで貢献した部分もあるでしょう。でも、そういう人をハッピーにさせたまま終わらせてはいけないなと思いました。

