――利雄の「支配する力」は、やがて家族にも向かっていきます。

濱 味方に対して独占欲や支配欲のようなものが出てくるんです。いわゆるモラハラではないけれども、ハラスメントに近いような姿勢で愛する人と向かい合ってしまう場合がある。

 そうすると、相手はそれを疎ましく思う時が来て、自然と離れていく。そこに子供がいれば、子供がどちらにつくかによって夫婦の関係も変わってくる。そういうことを家族の中で書いていくのにも、一つの意味があると思ったわけです。

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――ただ、一族が壊れていく話だけを書きたかったわけではない。

濱 やはり『血族』というタイトルにしたように、一族が争うだけでなく、家族愛も本当は描きたかったんですよね。

 だから利雄の妹には、悪い兄貴に対して正義の側に立つ女性が欲しかった。正義をやるには医者よりも弁護士の方がいいだろうと。女性の弁護士が、最後は家族を救っていく形にしたかったんです。

――では、『孤高の血族』の「孤高」はどこから来るのでしょうか。

濱 利雄は、父の利宗の大久保(弘之)に当たるような、親友を作れなかったんですよ。

 大久保は、利雄を若い頃から見て、才能を認めて支えてきた人です。利雄自身もたくさんの人脈を持つようになるけれど、近しい友達を自分で作ることだけはできなかった。そこは一族の中で利雄が唯一信頼していた伯父の宗春と同じだった。

――利雄には、何が足りなかったのでしょうか。

濱 利雄は、狭い世界の支配欲しか持てず、天下国家を見られなかったということですね。

――最後に改めて伺います。病院も財産も人脈も手に入れた利雄が、最後まで手に入れられなかったものは何だったのでしょうか。濱さんにとって、利雄は結局どんな男だったと思いますか。

濱 利雄は、巨大病院の理事長として絶大な権力を手にしていました。医師としても、腹腔鏡手術という当時の最先端技術を身につけています。けれども、「医は仁術」という言葉があるように、患者を思いやり、患者のために尽くすという姿勢は、最後まで持てなかった人です。人間としても、夫婦、きょうだい、親子のいずれの間でも、愛情というものを知らないまま生きてしまいました。

 物事の本質をつかまずに人生を歩むと、根のない空洞の木のまま育ってしまい、やがて強い風にあおられてぽっきりと折れてしまう。そういうことは、往々にしてあるのではないでしょうか。

 この作品を読み終えたあとには、モヤモヤが残るかもしれません。ただ、そのモヤモヤの正体は何なのかを考えていただくことが、人生でいちばん大切なことを考えることにつながるような気がします。

濱嘉之さん

孤高の血族 (文春文庫)

濱 嘉之

文藝春秋

2026年4月7日 発売

最初から記事を読む 「ほぼ実話です」――なぜ“地方の医療一族”の物語が、警察と政治とカネの話になるのか