幼い頃、近所の女性が見かけた少年は、元気よく挨拶をする「いい子」だったという。その同じ少年が、16歳で母親を金属バットで撲殺し、のちに大阪で姉妹をも手にかけ、25歳で死刑となった。

写真はイメージ ©getty

 山地悠紀夫とは、いったい何者だったのか。ノンフィクション作家・八木澤高明氏の文庫新刊『殺め家』(鉄人社)が、その軌跡を追っている。

「安らぎの場所」だったおもちゃ屋

 山地が生まれ育ったのは山口県山口市。両親の離婚後、母子家庭として育った彼は、中学卒業後に新聞配達をしながら母親とアパートで暮らしていた。アパートから歩いて五分ほどの場所にあるおもちゃ屋が、彼にとっての安らぎの場所だった。

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 子供たちとカードゲームに興じ、そこで働く女性と恋にも落ちた。しかし著者が現地を訪れた時、おもちゃ屋はすでに学習塾へと姿を変えていた。

 凶行のきっかけは、交際相手への母親の無言電話だったとされる。恨みでも金銭目的でもない、その「トリガー」の小ささが、かえって底知れない恐怖を呼び起こす。数年の少年院生活を経て娑婆に戻った山地は、ゴト師グループに加わり大阪へと流れ着く。

 そして姉妹殺害後も逃亡するわけでなく、近くの銭湯に入ったり公園で眠ったりしながら、ふらふらとその界隈を歩き続けた。

 かつて彼が暮らしたアパートは取り壊されて駐車場となり、砂利の中にコンクリートの基礎だけが残っていた。

(つづく)

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