在宅医療の世界で、800人以上の人々を看取ってきた医師・小堀鷗一郎氏が新著『人は生きてきたように死ぬ』を上梓した。終末期医療の現場で、さまざまな患者さんとその家族に向きあってきた小堀氏が現代社会にいだく危惧とは?

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小堀鷗一郎氏 撮影・三宅史郎(文藝春秋)

「人は死なない」という幻想にとらわれた国

――新著を読んでまずハッとしたのが、日本社会は「人は死なない」という幻想にとらわれているのではないか、という指摘でした。

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小堀 背景からご説明すると、日本では今や男性の平均寿命が81歳、女性が87歳(令和7年)に達し、長寿が現実のものとしてある社会です。しかし当然ながら、健康寿命と本当の生命の終わりは、また別の話です。日本人の介護が必要な期間の平均は4年7カ月ですが(2024年度「生命保険に関する全国実態調査」)、それはここ10年ほとんど変わっていません。

 2017年に安倍内閣が「人生100年時代構想会議」を設置したことで、人生100年という考えが広く浸透し、メディアがさかんに報道してきました。その影響もあるのでしょうか。ちまたではアンチエイジングブームで、長生きにはこのサプリや薬がいい、癌予防にはこれだと盛り上がっていて、学会でもしかりです。健康寿命と本当の寿命との関係なんて、誰も見ようとしない。

 一方で、政府は「人生会議」を提唱し、家族で死について話し合いましょうと言うものの、京都で世界長寿サミットを主導して開催する。矛盾だらけです。マスメディアだって「人は死にますよ」なんて言ったらみんな買ってくれないですからね。死を忌避して、あたかもどこまでも生きることが前提になっているかのような社会的風潮です。

――長寿をめぐって耳ざわりのいい言葉が溢れていますね。

小堀 長寿社会であることは確かなんですよ。しばらく前に、ニューヨーク・タイムズで、100歳以上が10万人を超えた国として日本が紹介されてました。その88%は女性なんですね。しかし現実には寝たきりになったり、老いとシビアに戦ったりしている人たちが大勢いる。

――本書に出てくる、患者さんがもうすぐ亡くなりそうなことを伝えたら家族が激怒した話や、もう助からないとわかっているのに、蘇生のため医者が馬乗りになって心臓マッサージをしないと家族が納得しないエピソードなど、衝撃的でした。

小堀 だから昨今は医者の方も、がんの末期患者や高齢者に、心臓の止まった人に蘇生をするかしないかという、念書を要求するようになっているんですね。極端な場合、これがないから診ないなんていう医者も出てきている。

 それほどまでに人が死ぬことを受け入れがたい社会だということです。

©AFLO

ひとりひとりの死の形はすべて異なる

――これまで800人以上の方々を看取ってこられて、人間の死をどうとらえているのでしょうか。

小堀 忘れてならないのが、ひとりひとりの死の形はすべて異なる、という事実です。どんな家庭で生まれ育ってきて、どう生きてきて、その人が一番誇りに思うような人生の最盛期が何であるかは、それぞれみな違う。

 今回の語り下ろし本で、平松洋子さんにじっくり取材されるなかで気づいた点がありました。僕はナースによく「先生は本当にコミュニケーション能力が優れてますね」なんて言われるけど、そういうことじゃなかった。在宅医療というのは、自分が本性をさらけ出して患者さんと向き合わなきゃ話にならないというのが本質だった。なぜなら、ひとりひとりの考えていることは千差万別だから。時にある人にとっての正解は、別の人にとっては間違いだったりする。

――どういうことでしょうか?