その人にとって“人生で一番誇らしいとき”を大切にする

――先生は、そんな貧しい患者さんの方々に対しても、その人の望みは何だろうと耳を傾けて寄り添う姿勢で知られています。

小堀 体を悪くしてるのにどうしてもタバコを吸いたい、お酒を飲みたいという人に、まあ僕は寛容です(笑)。マニュアルに沿った健康な生活を送ったって、あまり寿命に変わりがない人を相手にすることが多いから。

 例えばホームレスみたいな生活を送ってきた人で、肺気腫なのに酸素ボンベから10リットルも酸素を吸って、煙草を吸おうとした人がいました。そういう人に今さら生活を正そうたって、その人が今まで過ごしてきた人生を踏まえると、あんまり幸せにも、寿命の延長にもならないでしょう。

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 あとは、その人にとって人生で一番誇らしいときを大事にしてあげることは意識しています。ある女性は、若い頃、美空ひばりの洋服を自分がつくったと語るんです。ある洋服屋さんの方で、息子も知らない話でした、彼女は僕の顔を見るたびに、誇らしそうにその話ばかりしていました。

 でも悲しいことに、やがて彼女は認知症になってもう思い出せなくなりました。記憶にあるのは、故郷の会津磐梯山の歌だけ。認知症は誰にだって起こり得ることですが、そうなると人は自分が誇りとしていたものを語れなくなるんですね。

 終末期には、生きるか死ぬかの瀬戸際の問題だけでなく、老いのプロセスのなかに認知症の問題があることも忘れてはならないと思います。

――最後に、この本をどんな方々に届けたいですか。

小堀 かつて、「ゴミのようになって死ぬのが怖い」と感じていたある方が、私の本を読んで、「死は苦しいけれど最期の大仕事と思えてきた。頑張って力を尽くして生きて、力を尽くして死のうと思う」と感想を書いてくださっていました。本書には、在宅医療の現場のリアルから、名もなき市井の人々のさまざまな最期のかたちまで、深い思いを込めています。

 本書がだれかの人生の力になることを心から願ってやみません。

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