終戦から2ヶ月ほどがすぎた1945年10月、群馬県のある静かな村で、警察官が一軒の家のまわりの土をふるいにかけていた。村人が「事件なんて滅多に起こらない村」と語る場所で、17歳の少女をめぐる衝撃の事実が明らかになる。

 事件が発覚したのは1945年10月のことだ。村の駐在巡査が戸籍調べで山野朝吉の家を訪れ、次女のトラの姿が見えないことを気にかけた。

 母親の龍(32)は感情の起伏も見せず、こう答えたという。

ADVERTISEMENT

「前橋に子守りに出ていて、8月5日の空襲で焼け死んだ」

 しかし役場に死亡届は出ていなかった。巡査が再び尋ねると、証言は変わった。

 「母親が娘を食べちゃった」

「トラは病気で死んで、庭に埋めた」

 警察署での尋問の末、龍はぽつりと真相を洩らす。昭和20年3月26日、ついに家の食べ物が尽きた日のことだった。龍は他の子供たちを遊びに行かせ、トラを襲った。

 そして肉を切り刻み、囲炉裏の鍋で煮たという。

写真はイメージ ©getty

 肉をほとんど口にしたことのなかった子供たちは、鍋を見て歓喜しながら食べた。夕方に帰宅した朝吉は、何の肉かを悟ったのか、ひと口も手をつけなかったそうだ。龍は肉を近所にも配った。当時、新聞記者が村人たちに食べたのかと聞いて回ったが、答える者はいなかった。

 事件を知る川島春治さんは、今も半信半疑の様子だ。

「食事にサツマイモが1本出れば、御馳走の時代だったんだよ」

(つづく)

次のページ 写真ページはこちら