10月19日、作家の小林信彦さんが93歳で死去した。幅広い著述活動の中で、映画評論においても際立った存在感を放った小林さんが選ぶ、戦後日本の名作とは。小林氏が月刊文藝春秋に2022年に寄稿した「日本映画ベスト50」から、一部紹介します。
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戦後日本の立ち直りとともに生まれた映画たち
「大曾根家の朝」(46・松竹大船)
軍部への怒りを木下惠介が爆発させた。敗戦の翌年、それをホームドラマでやるのが木下らしい。悪役(軍人)は小沢栄太郎。傑作。
「銀嶺の果て」(47・東宝)
新人・三船敏郎を含む三人の男が銀行をおそい、日本アルプスに逃げこむ。寒い時に、などと言うなかれ。黒澤明の脚本だ。ひとりで拳銃を掃除している三船が(拳銃が初めてに見えず)、鬼気迫る。撮影の荷物を無名の岡本喜八が山に運んだ。
「お嬢さん乾杯!」(49・松竹)
原節子の悪口をいう世評に木下惠介が腹を立てて作った名作。五十本の中で、この名作だけは見て下さい(原節子はこの年には、名作に多く出ていたのだ)。
野蛮な男(佐野周二)とレディ(原節子)の恋というアメリカのロマンチック・コメディのパターンを、脚本の新藤兼人が生かした名作。終わりに近いところで「愛染かつら」のメロディがかすかにきこえます。さすが、松竹!
「晩春」(49・松竹)
戦時中はもちろん、戦後も「長屋紳士録」「風の中の牝鶏(めんどり)」と、一般的に〈不調〉といわれた小津安二郎が、妻を亡くし、娘の幸せを考えている父(笠智衆)と、父の身を案じている娘(原節子)のしずかな生活を描いて、戦後の〈小津調〉の基本をとりもどした名作。黒澤、木下ら、みんなが元気になった昭和二十四年作品。
「野良犬」(49・新東宝/映画芸術協会)
「酔いどれ天使」につづく黒澤明のヒット作。ピストルを盗まれた白スーツの刑事(三船敏郎)が東京のあちこちをさ迷う。河村黎吉(れいきち)が出る、後楽園球場も出る、黒澤明好きはうっとりするしかない。アメリカで好評。
「西鶴一代女」(52・新東宝/児井プロダクション)
溝口健二がどうも少ないのは、封切で見ていないからだ。この映画は武士の娘が街娼になるまでを描いて、背筋が冷たくなった。ヴェネツィア映画祭で評価され、監督は海外での評価に目ざめる。
「本日休診」(52・松竹)
渋谷実が描く戦後風景。三國連太郎が戦争の悪夢を見る男を演じた。この年、渋谷実には「現代人」という秀作あり。
「原爆の子」(52・近代映画協会/民芸)
新藤兼人が監督になり、原爆の残酷さを告発した。
「稲妻」(52・大映)
スランプを脱した成瀬巳喜男は「めし」「おかあさん」といった秀作を放つ。東京の下町で貧乏だった私はこの映画の高峰秀子に同感。
「生きる」(52・東宝)
戦前の名監督が立ち直り始めたこの時代、黒澤明は松竹の名脇役、日守新一を起用して秀作を作った。
