「壮絶な経験をしてきました」と売り出すのも違う
渡辺 お話を伺っていると、日本で生まれ育ち、日本語を使ってこられているので、ご自身の中に「セネガルと日本のハーフだ」という意識はそれほど強くなかったのでしょうか?
伊藤 強くなかったですね。家族について書き始めてから興味を持ち始めて、意識が強くなってきたところはありますが。ハーフだからという理由でいじめられたこともないから、「壮絶な経験をしてきました」と売り出すのも違いますし、世の中にはもっと大変な思いをしている子たちがたくさんいる中で、私がそれを言うべきではないと思っていて。
渡辺 一方で、伊藤さんが手がけられた絵本『モプーはヘンダ』では、褐色の肌を持つ男の子が周りから奇異な目を向けられるというテーマを正面から扱っていますよね。
伊藤 絵本に関しては、社会的な不安や生きづらさを抱えている子どもたちに「大丈夫だよ」と寄り添いたい気持ちがありました。数年前から排外的な言葉が増えてきて、私ですらナイーブになってしまうことがあったんです。そんな時は『魔女になりたい』にも書いたような友達と「うちら最近気まずいね」と話しながらご飯を食べてごまかしていたのですが、それは大人だからできることで、もし子どもだったら本当に辛いだろうなと思います。エッセイだと「伊藤亜和」が付きまとってしまいますが、絵本なら自分であることを少し離れて、普遍的なメッセージとして届けられるとも考えました。
渡辺 『魔女になりたい』でも、エッセイの合間にフィクション要素の強いショートストーリーが挟み込まれていますよね。これも自分との距離があるという意味では絵本と近いのでしょうか。
伊藤 そうですね。ショートストーリーに関しては、自分の生活や感情から離れて、さらに詩のようなぼんやりとした表現として書いています。

