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インタビューから見て取れる佐野元春の影響

 初めてお父さんに野球場に連れて来てもらった子供が、帰り道、「どうだった?」と訊かれても、すぐには答えないで、しばらく黙っていて、それからやっと「……面白かった!」と、まだ興奮が冷めないかのように答える。そんな風に言ってもらえる選手になりたい、と。

 こういう格好のつけ方が、佐野元春そっくりなのです。影響されてそうなったのかそれとも元来こうなのか、いずれにせよ佐野ファンの目で見ると嬉しくなってニヤニヤしてきてしまうのですね。こんなところに同類がいた! と。

 あ、この同類というのは自分の同類だという意味じゃないですよ。いくら何でもそこまで図々しくはありません。佐野元春の同類だ、ということです。この2人の関係は一方通行ではなくて、佐野元春の方でも《僕が野茂英雄の「客観性を欠いた観察者─つまりファン」である、という告白》と書いたことがあるほど(1995年「This」Vol.1No.4より「野茂英雄、彼のフィールド・オブ・ドリームス」)。

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格好のつけ方が佐野元春そっくり? ©文藝春秋

 前述の引退記念「Number PLUS」にも見開き2ページの佐野元春インタビューが掲載されていて、そこで彼はこんな風な野茂英雄評を語っていました。

《引退表明したときの「悔いが残る」という言葉。ふつうはきれいごとを言うのが常套的な手段、終わりの挨拶なんでしょうけれど、彼がそう言ったのはよく分かりますね。彼のリベンジはまだまだ続くな、ということをあの一言から僕は感じました。復讐みたいには思っていないでしょうけれど。管理の地獄から解き放たれるべく、自由というスピリットを持って、自分は闘ってきたっていう自負が聞こえてきそうでしたね。》

 これを憶えていたので、先日放送されたNHKスペシャル「平成史スクープドキュメント 大リーガー NOMO ~“トルネード”・日米の衝撃~」の最後で、あ、と思ったのです。

 インタビュアーの大越健介さん(元東大野球部のエース!)が、大谷翔平について尋ねたのですね。メジャーリーガーの大先輩から、期待のホープについての評価を聞く。或いは、エールを送ってもらう。そうすることで、受け継がれるバトンとでもいうようなものを視聴者に印象付ける。そういう質問であったかと思います。

 でも、野茂さんはこんな風に答えたのでした。ちょっと困ったように微笑して。

 対戦したいですよ、と。

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