群馬県大泉町――。人口約41,800人のうち外国人が約7,500人、人口比率で約18%を占める日本有数の“移民の町”だ。なかでも最も多いブラジル人は4,221人に上る(今年8月末現在)。大泉町にブラジル人が移住してから、既に30年以上が経過している、日本における“移民先進地域”だ。
大泉町では2007年から毎年、サンバのイベント「大泉カルナバル」を開催してきた。ところが今年6月、大泉町観光協会は突如、今年度の開催中止を発表した。大泉町でいったい何が起きているのか。
実は大泉町における「サンバ」が中止されたのは今回が初めてではない。大泉町では、1991年から「サンバパレード」が開催されていた。町おこしとして大きな注目を集め、全盛期には20万人もの観光客が集まる大イベントだった。ところが、このサンバパレードも2001年に中止を余儀なくされている。
当時、町長を務めていた長谷川洋氏は中止の理由についてこう説明する。
「パレードの当日はいたるところに違法駐車の車が溢れ、観光客で身動きが取れませんでした。私も警備に駆り出されて、観光客が路上に飛び出さないようにロープを握っていましたが、その圧力は怖いくらいでした。ダンサーや観光客の安全性を考慮して中止になったんです」
ダンサー同士の性行為が……
だが大泉町商工会の茂木透会長は、中止された理由は安全性の問題だけではないと指摘する。日本人住民の中には、サンバパレードへの不満が充満していたというのだ。
「あるレストランの経営者が『ダンサーが着替える場所に使ってください』と、お店を提供してくれたんです。ところが、そこがダンサー同士の性行為の場として利用されたのです。後片付けもされず、行為に使った物がそのまま放置されていた」
「サンバパレード」中止の6年後から「大泉カルナバル」が行われるようになったが、今年中止された。観光協会のHPには、以下のように記されているのみだ。
<当協会各関係者と企画立案、調整を行ってまいりましたが、整が付かず、今年は中止という運びと相成りました。>(原文ママ)
大泉町関係者がその背景を解説する。
「元々、運営の一部に公費が充てられていた時期もありました。ただ『大泉カルナバル』は『サンバパレード』と比べて入場者数も少なく、『日系ブラジル人の小さなイベントのためになぜ公費を使うのか』という声が上がっていた。他の国籍の住民もいるのに、なぜブラジル人だけを優遇するのか。カルナバルが中止された背景には、こうした日本人住民の不満があったのです。来年以降は企画を一新して開催するという声も上がっていますが、まだ見通しは立っていません」
日本人とブラジル人との「共生」について、村山俊明町長はこう漏らしている。
「共生というのはまだまだ。はっきり言ってかけ離れていると思う」
「文藝春秋」11月号に寄稿した「外国人比率トップ 群馬県大泉町の悲鳴」では、日系ブラジル人の生活保護や犯罪、子供たちへの教育など大泉町が抱える諸問題について詳しく書いた。
※「文藝春秋」11月号では、「亡国の『移民政策』」と題する特集で、“隠れ移民大国”日本が抱える様々な問題を検証しています。ぜひ他の記事もあわせてお読みください。