弁護人や証人、裁判官、書記官、そして約30の座席を埋め尽くした傍聴人が何とも言えない表情で検察官の語りに耳を傾ける。その中で、ひとり被告人だけがほとんど無表情だった。スーツの前ボタンを留めずに浅く腰かけ、小さく口を開けている。

 女性検事が早口で朗読するのは、その事件の被害者である小学生児童の供述だ。

「家の前で遊んでいたら、知らない男の人がいつのまにかオチンチンを出していた。オチンチンを触って、何かがピュッと出た。気持ち悪かったし、なんでこんなことするんだろうと思った」

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路上に残されていたのは「尿」ではなかった

 静まり返った法廷で、男性器を指す幼児語が何度も繰り返される。語られたのは、白昼の路上で小中学生を相手に露出行為を繰り返した男(26)の犯行の一部始終。人定質問で職業を問われ、ぶっきらぼうに「無職です」と答えた彼は事件当時、北海道警の現職警察官だった。

 今年6月24日午後、札幌市南区の住宅街に変質者が現われた。近所に住む女子小学生4人が公園の近くで遊んでいたところ、その男は突然、下半身を露出した状態で姿を現わしたという。事件を知った地域の小学校は保護者向けの「防犯だより」に、男が「塀に放尿した」という児童の報告を記した。だが、たまたまその様子を目撃していた近隣住民が現場に赴くと、路上に残されていたのは「尿」ではなかった。住民はすぐに110番通報、自宅の窓からタブレット端末で撮影した映像を警察に提供し、早期解決を願い出る。容疑者逮捕の報が伝わったのは、事件から1カ月強が過ぎた8月7日のこと。地域内を2エリアに分けて巡回を続けていた町内会役員らは、一様にほっとした。

 町内では、2年ほど前から類似の公然わいせつ事件が頻発していた。2016年の秋以降、同じ人物によるとみられる露出事案が狭い範囲で集中して起きており、先の小学校の防犯だよりでは計5回、中学校の報告書でも重複のケースを含めて5回、北海道警の登録制防犯メールでは13回にわたって目撃情報が発信され、そのつど注意喚起がはかられていた。6月の事件の解決は、住民にとってその連続事件の終息を意味していた。