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宗教だけではない様々なカルト

 オウムより早い時期から霊感商法や合同結婚式などが問題になっていた統一教会(正式名称は世界基督教統一神霊協会から世界平和統一家庭連合に変更)は、教祖の死後も、保守系政治家などに食い込み、活動を続けている。

 カルトは宗教とは限らない。様々なテロ事件や内ゲバ事件を引き起こした新左翼系過激派のような政治的セクトも、自分たちの思想を絶対視し、目的のためには手段を選ばないなどの点で、カルトの一種と言っていい。

 ネズミ講やマルチ商法の一部には、人の心を支配して人間関係を破壊するなど、かなりカルト性の高い集団もある。

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海外のカルト、自称「イスラム国」なども

 もちろん、カルトは日本だけに現れるものではない。

 一時期、シリアからイラクにかけて、かなりの地域を支配下においた、自称「イスラム国」(ISIL)なども、イスラム原理主義を前面に押し出したカルトと言えるだろう。内戦が続くシリアの惨状に心を痛め、自分も何か役立ちたいと思っているヨーロッパで暮らす若者が、ISILの勧誘動画に使命感を刺激されて、飛び込んで行ってしまった、という話は、近づく大破局(ハルマゲドン)から人々を救う「人類救済」の物語にはまってしまったオウム信者の心の支配のプロセスと重なる。

 また、オウム事件が起きた頃にはカルトの特質と考えられたことを、昨今、私たちの社会の中でもしばしば目にするようになった。

カルト性の高い集団の担い手になりがちな層

 たとえば、一つの極端な考え方を絶対正しいものとして熱狂的に信じ込み、それに矛盾する事実を歪め、異なる意見は敵対視し、攻撃する人たちがいる。いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる人々だけでなく、それとはまったく逆の立場の人の中にも、そうした現象は見られる。いわゆるフェイクニュースや歴史修正などは、そうした「社会のカルト化」の産物だろう。

 そんな中で、インターネットを活用し、ブログで様々な陰謀論を展開して支持者を集め、特定の弁護士を大量の懲戒請求で攻撃するなど、極端な政治的主張を実践させる動きも出て来た。傍目には、かなりカルト性が高いネットワークに見えるが、その主たる担い手は、中高年の人たちである。

 仕事はリタイアして時間はあり、まだまだ元気で社会の役にも立ちたい。そんな高齢者層は、ネットの虚実とりまぜた情報の海に慣れた若者よりも、ネット検索で上位に来る「マスコミは報じない真実」といった怪しげな情報を信じ、極端な主張に取り込まれやすい。とりわけまじめで一つのことに打ち込むタイプの高齢者層は、ネットを利用したカルト性の高い集団のターゲットになりそうだ。

©iStock.com

 もちろん、オウムのように人を殺すほど過激ではないが、2元論的思考や陰謀論の多用、選民意識や過剰な使命感、過度な被害者意識などのカルト性(と思っていたもの)は薄く広く、社会に浸透しているように思えてならない。もしかしたら、オウムはこうした社会を先取りし、思い切り凝縮して見せた「時代のカナリア」だったのかもしれない。

 そうした今の社会を客観的に眺め、私たちが悲劇的な末路をたどらないためにも、反面教師としてオウムのことを知っておいて欲しい、と思う。

「オウム事件の真相は闇の中」と言う人たち

 一部には、麻原の死刑が執行されたことで、「オウム事件の真相は闇の中」と言う人たちがいる。裁判で明らかになった事実を無視し、「(麻原の)3女が言うように、彼は地下鉄サリン事件の指示はしていないかもしれない」などと言い出す”識者”まで出てきている。後継教団が、こうした発言を見逃すはずはなく、新たな信者獲得のために事実を歪める歴史修正や陰謀論を展開するだろう。教団とは無関係でも、陰謀論好きな人たちはいる。すでに、新しい信者は「サリン事件はでっち上げ」などと書かれた印刷物を渡され、ネット上には「地下鉄サリン事件で使用されたサリンはオウムのものではない」といった虚偽情報も散見される。

事実を正しく後世に伝えるために出来ること

「真相は闇の中」などではない。それは、裁判の記録をきちんと読めば分かる。その裁判記録すべてを、上川陽子法相が永久保存することに決定したのは、事実を正しく後世に伝えるために、非常に意義深い。

 ただ、裁判記録は検察庁に保管・保存されており、閲覧には制約が多く、容易ではない。せっかく残すのだから、研究や報道などのために、ちゃんと活用できるようにしてもらいたい。このことは、今後も声を大にして言っていくつもりだ。

 また、オウム事件については、様々な報道があり、ノンフィクション作品が書かれた。裁判の公式な記録とは別に、その時代を生きたジャーナリストや作家が、何を見て、何を考えたのかも、この問題を知るための大事な資料だと思う。

 拙著も、そうした資料の一部として電子書籍として残ることになった。未だ全貌が明らかになっていない時期の記述には、不十分なところもある。しかし、当時、社会の側から何が見えていたのか、それをそのまま知っていただくことも意味のあることだと思う。

 こうした資料が生かされ、カルトに巻き込まれ、自分の人生を台無しにし、他者の人生を破壊するような悲劇が、少しでも防がれるよう願ってやまない。

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江川 紹子(えがわ・しょうこ)1958(昭和33)年、東京生まれ。早稲田大学政経学部を卒業し神奈川新聞に入社。社会部記者として勤務したのち87年に独立。フリーランスジャーナリストとして新宗教、冤罪事件など困難なテーマに取り組んでいる。95年、オウム追跡の一連の報道で菊池寛賞を受賞。著書に『大火砕流に消ゆ』『6人目の犠牲者─名張毒ブドウ酒殺人事件』『救世主の野望─オウム真理教を追って』『「オウム真理教」追跡2200日』『「オウム真理教」裁判傍聴記1─2』『全真相 坂本弁護士一家拉致・殺害事件』『魂の虜囚・オウム事件はなぜ起きたか』など。