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2018/11/01

スナ女が語る「スナックの魅力」

 足を運んだのは、東京のオフィス街・神田の2軒。1軒目の高架下のスナックはドアを入って、狭い通路を少し入ると左手が寿司屋、右手がスナックになっており、寿司屋は78歳の職人肌のご主人と優しそうな息子さん、スナックはおかみさんと娘が切り盛りする、なんともアットホームな不思議空間。「スナックの魅力は何といってもママとマスター」と五十嵐さんは語るが、確かにあっという間に、肩の力が抜ける昭和の郷愁空間にワープしたような気分になった。

©岡本純子

 五十嵐さんは、旅行会社で全国を飛び回る中で、たまたま立ち寄ったスナックでその魅力にはまり、これまでに全国津々浦々200軒以上を訪問してきた。様々な年齢や職種の人が集まり、「人付き合いを学ぶのに最適な場所」と語る。日本のサラリーマン男性は縛りの強いタテ社会に身を置き、上下関係に基づくコミュニケーションを続ける中で、胸襟を開き、フラットな関係性を作ることが極端に苦手になる傾向がある。

 スナックでは、職場の仲間と来ない限り、社長から平社員まで肩書や地位などはあまり、関係ない。自らもスナックを経営するお笑い芸人玉袋筋太郎さんは「スナックは前後左右、世代を超えたコミュニケーションを学べる研修の場」であり、「ぬるめの半身浴の混浴」と形容しているが、まさに「ヨコ」のつながり方を学ぶ最適の教室といえる。

(写真)五十嵐真由子さん提供

 2軒目のスナックは80代のママと60代のちいママが仕切る大人の社交場だった。「あら、童貞ちゃん」。同行した50代の編集者にこう呼びかけ、手を握った。そう、ここはちょっとしたエロトークもOKの午前2時のテレビ番組のような空間なのだ。スナックのママたちの場さばきの術は天才的だ。酔っぱらって絡む客を上手にあしらい、ほかの客に迷惑をかけないようにする。叱ってくれ、話を聞いてくれ、話をしてくれる。そして軽いスキンシップさえ許してくれる。傷ついたオジサンたちを癒す現代の「ナイチンゲール」のような存在だ。

スナックで守らなければいけない6カ条

 そんな楽園ではあっても、守らなければいけないルールもある。五十嵐さんは自ら作成し、配布している「スナック入門教科書」で、以下の心得を挙げている。

(1)    ママの許可なく入店すべからず

(2)    入店時は「お邪魔します」の気持ちを大切に

(3)    根ほり葉ほり聞くのではなく、自然と打ち解ける

(4)    カラオケは独占しない、終わったら拍手するなどマナーを守る

(5)    困ったベロ(泥酔)客にはならない

(6)    引き際を心得、粋な客を目指せ

 つながりが希薄化する現代社会において、ユニークな絆を育む「生態系」として、スナックには無限大の可能性が秘められている。皆さんも小さな一歩を踏み出してみてはいかがだろう。

世界一孤独な日本のオジサン (角川新書)

岡本 純子(著)

KADOKAWA
2018年2月10日 発売

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