安倍政権の関心は変わらず「戦後レジームからの脱却」にある
では、安倍政権は何がしたいのか。私は第二次政権以降も、安倍政権の主要な関心は「戦後レジームからの脱却」にあるとみています。
なぜこの言葉を使わなくなったかと言えば、英語に訳すと違う意味になってしまい、大変なことになるからでしょう。“Postwar Regime”、つまり国際的な意味での「戦後秩序」とは米国が同盟国を優遇し、公共財を提供し、自由貿易を広めてきた秩序のことですから、そこから脱却するなんて言おうものなら、まあ中華人民共和国による米国覇権へのチャレンジ並みのことを意味してしまうからです。日米同盟を破棄して自前の核武装をし、事実上の植民地をつくってブロック経済を形成するみたいなとんでもない意味合いに受け止められかねない。
安倍さんが当初考えていたであろう「戦後レジームからの脱却」は、戦後秩序の枠内での日本の国内政治の伝統の転換だろうと思います。それは、戦後処理、安全保障、憲法、歴史問題、国家の権力行使などの分野にまたがって存在する論点です。ここに対米自立という項目が入らないのは、右派が政権を取ったからです。メインストリームからはじき出された保守の一部に残っていた反米感情は、安倍さんという右の人が政権を取ることで、まるで問題にならなくなった。それが日本の現実であり、日本は日米同盟以外の安全保障を担保する手段を持たないからです。
直近5回の国政選挙では、いずれも経済政策を前面に出しながら戦って勝利しています。そして、そこで得た政治的資源は「戦後レジームからの脱却」案件を進めるために投入されてきました。そこにおける変化はいずれも、他の先進民主主義諸国と比較すれば穏健な改革にすぎません。しかし、確実に「戦後レジームからの脱却」は完成しつつある。現在積み残した課題の大きなものは憲法改正くらいでしょう。
2021年に私たちを待ち受ける政治について考えるために
こうした戦略をとる安倍政権の外側に、改革期待を惹きつける強力な政治勢力が存在せず、安倍政権が歴史的国際的に見て正しい課題設定を行っているのに比べ、同等以上に正しい課題設定を行っている有為な政党がないから、安倍政権は安定しているのです。
3年後、私たちを待っているのは、危機かもしれない。やれることはやり尽くした後の、のっぴきならない改革の必要かもしれない。2021年に私たちを待ち受ける政治について考えておくために、ぜひ『あなたに伝えたい政治の話』をお読みいただければと思います。