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寒くて汚かった日雇いアルバイトの現場

――短期大学を卒業されたあとは、就職はせずにずっとアルバイトをされていたのですね。

畑野 ちょうど就職氷河期だったので、短大卒だとほとんど就職先はありませんでした。まわりにも正社員で就職した人は数人しかいなかったし、自分が正社員になれるとはとても思えなかった。映画館や新聞社など、アルバイトは15種類ほど経験しました。新聞社でのアルバイトは3年間続けましたが、そのあとはなかなかフルタイムのバイトが決まらず、失業保険を受給して、日雇いのバイトも経験しました。

©鈴木七絵/文藝春秋 

――日雇いのバイトではどんな仕事をされていたのですか。

畑野 子ども服の検品をしたりしました。朝早く駅に集合すると、バスでどこだか分からない倉庫に連れて行かれて、段ボールのなかにある服をひたすら数える。仕事場は寒くて汚くて、休憩時間以外はトイレにも行けませんでした。日雇いアルバイトのことは、今回の小説にも主人公の経験として書いています

“貧困女子”に「もっと努力しろ」なんて言えない

――貧困に陥る若者のなかには、畑野さんのように家族との関係に問題がある人も多いと思います。今回“貧困女子”をテーマにした作品を書くうえで、取材したり資料を読まれたりして、どう思われましたか?

畑野 貧困に陥った人に対して、ちゃんと勉強して、良い大学に入って就職すればよかったのに、という人もいますよね。でも世の中は勉強に向いている人ばかりではないし、勉強が得意でも、バイトしなきゃいけないとか、親が家のことをやってくれなくて弟妹の世話をしなきゃいけないとか、事情のある子もいっぱいいる。なんでもかんでも“自己責任” と言われますが、本当に自己だけの責任なんでしょうか。

――奨学金の返済が苦しかったり、正社員になれなかったりとお金の不安にとらわれている女性も多いです。彼女たちが“貧困女子”にならないためには、どうすればいいでしょうか。

畑野 私は今、なんとか自分ひとりで生活できるようになったけれど、フリーランスだし、お金の不安はずっと消えません。日本では、新卒で就職しないとどんどん状況が厳しくなっていきます。そういう世の中で、お金の問題を抱えている彼女たちに「もっと努力しろ」とはとても言えません。変わるべきは彼女たちではなく、周りだと思う。国の制度はもっと分かりやすくするべきだし、いざというときに頼りやすい環境をつくるべきです。

――最新刊『神さまを待っている』主人公の女性、水越愛も家族との関係に問題を抱えた“貧困女子”だ。派遣社員の職を失ったことで家賃が払えなくなり、漫画喫茶で寝泊りするようになった彼女は、そこでさまざまな女性の貧困の形を目にする。

 貧困から抜け出すために必要なのは、“お金”だけではない。「お金が欲しい」と思い続ける著者が、主人公のために見つけたお金以外の“希望”とは何だったのか――

畑野智美( はたの ともみ) 1979年、東京都生まれ。2010年『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書にヒットを記録した『海の見える街』、ドラマ化された『感情8号線』、「南部芸能事務所」シリーズのほか、『罪のあとさき』『タイムマシンでは、行けない明日』『家と庭』『消えない月』『大人になったら、』『水槽の中』などがある。 https://note.mu/tomomi_hatano

神さまを待っている

畑野 智美(著)

文藝春秋
2018年10月26日 発売

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